狐火は、不意に思った。 例えば。 守りたい、と思うものがあって。 それを失ってしまった場合は、一体どうしたらいいのだろうか。問おうと口を開いて、止めた。 嗚呼、そうだ。 問うたところで、応えをくれるヒトは居ないのを思い出したから。 ******* 『、一揆?』 目の前で、珍しく髪を解いた幼子から出てきた、聞き慣れない言葉。その単語を鸚鵡返しに、聞き返した。 「んだ!おら達、もう我慢なんねぇ…!」 ぎゅい、と小さな拳を膝の上で握り込んでいる彼女は、焦っているような、それでいて悲しんでいるような。そんな体に、見て取れた。 狐火が村へとやってきて、早、一月。村について、知識が浅い狐火でも、村の状況が良いとは、思えなかった。"ここ数年、年貢の取り立てが著しく、厳しい。"いつきは、幼子らしくない、険しい顔付きでそう言った。狐火も、度々、村へと馬を牽いて遣ってくる人間を見ている。家屋を見てもそうだ。 『…、一揆ち、なんばすっと?(一揆って何をすること?)』 「悪いお侍をやっつけるだよ!」 狐火の問い掛けにば、と顔を上げたいつきは、思い詰めた表情で続ける。 が。 『、倒したら、平和になるとかいな。』 そう漏らされた声に、いつきはぐぅ、と口ごもる。 正直、酷だ、と思う。こんな幼い子供に、そんなことを説くというのは。何をしたら、安寧の日々が訪れるのか、分からないから、彼女はこう言っているのに。この方法しか分からないから、なの、に。 『争ったところで、何ちゃあならん。(何にもならないよ)』 御免、御免よ。 そんな顔をさせたい訳ではないんだ。争って欲しくないんだ。 気付かぬ内に、暖かい、と思えた彼女を。 失いたくは、ないからなんだ。 馳せるは、此処に (重ねて、) (ひぃらり、) |