(んぅ……。)


目蓋をゆる、あげる。だんだん、細かい光の粒が繋がり、一つの線へと姿を変えてゆく。完全に開ききった狐火の目蓋に飛び込んできた景色は、


逆さまの町並みであった。


「………………………。」

そういえば木の枝に寄りかかって寝たのだった、と彼女の脳が起き出すまで、あと、10秒。





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昨日に引き続き、狐火は奥州の町並みを彼方此方と見て回っていた。天下統一という目標が出来たからには、資金面も必要だと思ったのが、昨日の事だ。あの後、考え込んでいる中に寝こけてしまったようだった。

くあ、ふ、と欠伸を一つ。


今日は何をすべきか、行き詰まった彼女の足は、自然と米沢城へと向かっていた。


(朝っぱらから、活気あんなぁ。)


うとうと、微睡みながら、朝焼けの町並みを歩き出す。辺りにはまだ靄も懸かっているのだが、其れすらも感じさせないほどに賑わっている。

と、


ぐぅ、腹が鳴った。
其れもその筈。狐火はここのところ、二食程抜いているのだ。食糧が早く無くなっては事だという理由からである。

だが、

腹が減っては戦はできぬ。先ずは腹拵えだ、と彼女は持っていた荷物の口を開き始めた。

と、

『う、ぁっ、』

朝の光に意識が呑み込まれた。





********






駆けていた。

ただ、只、一面の光と闇の中を。

目的など無い。此処が何処なのか、自分は誰なのかすらも解らないまま。
白と黒の波が辺りを蹂躙している。嗚呼、懐かしい。だが、行けない。其方へと足を進めたい筈なのだが、行けない。いや、

行か、ない?


怖い。懐かしさが怖ろしい。何も、思い出したくない。このまま、解らないまま、褪せた波に身を任せていたい。だが、



急激に其れは自分を呑み込ん、で。







********






『は、ぁっ、ぅ』


息が乱れている。苦しい。必死に酸素を求め、吸い込む。


『そうだ、う、ちは、』


あの時、あの子を助けられなくて。


『ウチの、所為、』



拭っても、拭っても、消えやしない。





怜悧、ふわり、




(片鱗の追憶、)
(流れて、融けて、)



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