『あ゛〜、さっぶ!』



まるで親父のような声を上げ、サクサクと雪の音をさせているのは、黒髪琥珀色の瞳を持った絶世の美女。


『街まで結構あんだな…。メンドくせ。』


言わずもがな狐火である。











あの後、平介に別れを告げ、狐火は独眼竜・伊達政宗の治める城下へと向かっていた。


平介が何故そこまで武将に詳しかったのか、訊きたいことは山ほど有ったのだが、自分も何も話していない手前、虫がいいように訊くことなどできない。最低限のことを教えてもらい、そのまま出てきたのだ。



(もう一度逢えたら…奇跡、やな。)



この広い日の本でたった一人を捜すなど無謀である。吹き付ける凍えた風に眼を細めながら、平介に教えてもらった方角へ足を踏み出す。


と、




ちらり、此方へ向かって近付く気配。


(、疾い…忍ってヤツか。)



平介に教わったことの一つに確か忍のこともあった。動きが素早く、全体的に黒いらしい。主人を護る影。偲ぶ、から忍ぶ、に転じたとも言っていた。身体能力が上がった今、逃げ切れる、とは思うが、万が一の武器など狐火は何一つ持ち合わせて居らず。


(むーん…どうすっか。)

実際悠長に考えている暇などないのだが、生憎この美女には緊張感を持つという考えがない。まぁ、単に動き回るのが面倒なのだろうが。などと考えていれば、気配はすぐ其処。



ザッ、



黒い影が狐火の背後に廻る。そのままキラリ、黒光りする鋭利に尖ったモノを彼女の首筋へ、と、



宛てられなかった。

狐火はすんでのところで、伸ばされた腕をかいくぐり、その足を生かして、逆にその影の後ろへと下がったのだ。


改めて影の姿を視認する。 はて、と狐火は小首を傾げ。



「アンタ俺様の攻撃を避けるなんてね…。すっごい別嬪だけど、一体なにも、」


『忍べとらん、爺さん、忍べとらんのが居る…。』


「あれ、無視?そして余計なお世話!哀れむような眼ぇすんの止めてくんない!?」



視線の先には、派手な緑。





邂逅、即ち



(顔を出すのは、)
(不条の摂理、)



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