黒子と緑間の過ごす時間はいつも静かだ。二人きりでも、お互いに読書をしたりしている。曲がりなりにも、恋人であるというのに。それでも黒子には何の不満も無い。緑間となら、会話なんて無くても心地良いのだった。側に居るだけで安らげるのだから。だから黒子は、二人で過ごす静かな時が好きだ。いつまでも緑間の側に居たいと思えた。けれど、黒子は二人でどこかへ行くのも好きだった。緑間の新しい一面が見れたりするし、何よりも、恋人なのだと実感できる。共に本を読む時間とは全く違った楽しさがあるのだ。明日は二人で動物園に行く約束をしている。無愛想な男ながら、可愛いものが好きな彼が喜ぶだろう。そう考えての事だった。黒子も勿論楽しみであったが、しかし窓の外を眺めて溜め息を吐く。

(…雨、止んでくれませんかね)

窓に提げられたてるてる坊主が、弱く揺れた。


てるてるぼうずの恋


駅に着いて少しだけ辺りを見渡す。背の高い緑髪の彼は、まだ来ていないようだった。腕時計を伺えば、約束の10分前。真面目な緑間の事だから、きっとすぐに来るだろうとふんで、立ったまま待つ事にした。幸い、黒子は影が薄いので、駅の目の前に突っ立っていても目立つ事は無い。時折すぐ近くを通る人々を避ければ、迷惑はかからない。

(まぁ、肝心の緑間くんに気付かれないと意味ないんですけどね)

何もしないまま数分したら、待ち人が現れた。尋常じゃない高身長に、浮世離れした髪の色。混み始めた中でも、簡単に見つけられた。キョロキョロと周囲を見回す緑間に、声をかけようと一歩踏み出したその時、

「そこにいたのか、黒子!」
「へ、」

余りの衝撃に唖然とした。緑間は黒子を真っ直ぐに捉えて歩んでくる。けれど、そんなわけあるはずがないのだ。だって、いつも誰も自分に気付いてはくれない。それは例え緑間であってもそうで。それが、当たり前で。

「すまない、待たせたか?」
「え、あ、いえ、全然」

髪が少し乱れている。急いでくれたのだと喜ぶよりも、気付かれた困惑が勝っていた。喧騒の中、黒子は立ち尽くしたまま緑間を見上げる。どうして、という思いで悶々としていた。

「どうかしたか?」
「あ、や、なんで気付いたのか、と」
「は?…ああ、どうしてか今日はお前がすぐに目に入ったのだよ」
「はぁ…そうですか…」

緑間もよく分からないらしい。偶然の賜物なのだろうか、と黒子は思う。それでも、段々と嬉しさが募っていった。だって、こんな混雑の中で自分を見つけてくれたのだ。こんなに嬉しい事は無い。黒子は頬を緩ませた。

「…黒子、顔が赤いのだよ」
「え、そうですか」
「熱でもあるのか?」

無いと思います、と小さく答えて黒子は俯いた。不意に目を遣れば、緑間の鞄からてるてる坊主が覗いていた。そういえば、おは朝で蟹座のラッキーアイテムになっていた事を思い出す。確か1位だったはず。不意に、家の窓の側に吊るされたてるてる坊主が思い出された。仏のように優しく微笑む白い顔。効果は絶大だった。

(もしかしたら、君のおかげなのかもしれない)

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -