マイ・ベスト・フレンド 友達とは一体何なのだろうか。 柄にもなくこのようなことを考えたことが、昔あった。 友達にもたくさんの種類がある。 その日だけの友もあれば、一生ものの友情もあり、また性別や年齢を越えて繋がるものも存在するであろう。 しかし、自分にそのような"友達"と呼べる存在がいるのか、時折疑問に思うことがあった。 クラスでは1人でいることの方が圧倒的に多いし、部活では仲間はいるものの、それが"友達"なのかと考えるとやはり違う気がしてならない。 唯一、赤司とは仲が良いと言えないこともないが、胸を張って仲が良いと言えることもないのだ。 自分は、独りなのか。 仲間が4人もいるコートの中で、ただ黙々とゴールを目指すように。 自分は、独りなのだ。 たった4人の仲間でさえも、頼ろうとしないのだから。 これからも、そう。 適当に人と付き合い、バスケをし、卒業をして、誰も隣にいないままに生涯を閉じる。 そう、思っていた。 * * * 「あー寂しいねぇ、秋は悲しいよ。真ちゃんもそう思わない?」 いつも通りの部活の帰り道、緑間の乗ったリアカーを自転車で懸命に引っ張っていた高尾が、後ろも見ずに突然妙なことを尋ねてきた。 辺りは柔らかな西日に包まれてオレンジ色に染まり、少し冷たくなった風が2人の間を流れていく。 ちょうど空を横切ったカラスの群れを見ながら、緑間は大げさに眉を下げた。 「何を言い出すのだよ」 「いやね、この風景見ると思わない?もう秋だ、夏は終わったんだって」 「……まぁ、それは思うが」 「でしょ!?俺ね、小学生の頃から思ってたんだ。あーもう夏終わって秋来ちゃうのかーって。特に夏が楽しかった分、秋の寂しさも倍増というかさ」 「…それはよく分からないが」 「まぁ、真ちゃんもいつかは分かるって。好きな人と夏を過ごした後の秋とかってやばいからさ。あれは本当に感傷だね。寂しいどころじゃない!」 高尾は陽気にからから笑って見せたが、緑間は低い嘆息でそれに応えた。 きっと胸中は下らないという思いでいっぱいなのだろう。 「ったく、だからお前はダメなのだよ」 「まあまあ。あ、そういえばさ、夏って言えば今年の夏休みとか俺けっこう真ちゃんと会ったよね?」 「部活もたくさんあったしな。休み中もお前と顔を合わせるなど、最悪にも程があるのだよ」 眼鏡の位置を戻しながら毒づく。 太陽は山に隠れる寸前で、街をいよいよ赤に染めていた。 秀徳高校のオレンジ色のジャージが、空に溶けて消えそうだった。 「合宿もあったしねぇ。真ちゃんのナイトキャップ、マジで爆笑だったし」 「誠凛との練習試合もあったな。最後にお前がパスミスするから消化不良だったのだよ」 「あとバッシュ買いに行ったよね。真ちゃんが1人で買いに行けないって言うから」 「なっ……あれはおは朝のラッキーアイテムが『下僕』だったからで……!」 「なにそのおは朝過激だな!」 ははは、と高尾が楽しそうに笑った。 緑間はまた何か反撃をしようとして、ふと思い至った。 自分は夏休みの間、このどうしようもならない奴と、ずっと一緒にいたのではないかと。 部活はほぼ毎日で、休みになった日は買い物を手伝ってもらった。 突然奴が訪ねてくることもあれば、自分が勝手に呼び出したこともあった。 けれど、今思い起こすまではそれに何の違和感もなくて。 「…………」 前で苦しそうに立ちこぎをしている高尾を見やる。 すると、赤信号にぶつかったのか、リアカーが停止した。 会話が止まったのを訝って振り向いた高尾と、視線が衝突した。 「どったの、真ちゃん?何かあったー?」 ふいに、あの疑問が脳裏に蘇った。 友達とは一体何なのだろう。 自分に"友達"はいるのか。 昔問うた、答えの出なかった問い。 「おーい?止まってるよー?真ちゃん止まってるよー?」 「あ、あぁ……。少しぼーっとしてたのだよ」 「しかしなんか珍しいね。本当に何かあった?」 「それは…………」 きっと、今の俺はあの答えを見つけた。 「お前といる秋は寂しいと思ってな」 口元をゆるめた緑間の頭上で、一番星が静かに輝いた。 「へ、へぇ〜」 「何ニヤけてるのだよ!!」 |