静かな空間だ。そこに響くのは、微かな雨音だけだった。ぺたり、と足音がした。ソファに凭れ込んでいた赤司は、瞑っていた目を弱く開いた。足音の主を捉えると、柔く微笑んだ。 「…寝ているのかと思ったのだよ」 「うん、半分夢の中だったよ」 「疲れているんだろう、早く寝ろ」 緑間が濡れた頭をタオルで拭きながら、赤司の隣に座る。赤司と緑間は、大学入学と同時に同居を始めた。2人は恋仲で、所謂同棲というものである。しかし2人きりで住むには少し広いその部屋には、余り生活感が無かった。理由はといえば、2人が一緒にここで過ごす事が少ないからだ。学科が違う為、スケジュールが合わないが最大の原因である。しかも、赤司は何かにつけて皆に呼ばれるので、2人が共に過ごす時間が必然的に少なくなる。だから、余り生活感が出ない。広々としたそのリビングに、赤司の溜息が響いた。赤司はこの一週間、いつもより忙しかった。色んな場所に引っ張りだこで、一日家に帰れない日もあった程だ。寂しい、と何度思ったことか。 「もっと真太郎と一緒にいたいよ」 「仕方がないだろう、お前は忙しいのだから」 「…せめて一緒にお風呂を…」 「黙れ」 ぼそっ、と本音を零せば、緑間が至極嫌そうな瞳で赤司を見た。はぁ、と嘆息する。できるならばずっと恋人の側にいたいと思うのはいけないのか。理不尽だ、と赤司が憤慨する。実際は、風呂を例に出したが故の自業自得なのだけれど。疲れきった重い瞼を薄く持ち上げ、悠然と汁粉を啜る恋人を見やる。風呂上りで、髪がぺったり肌に張り付いていた。肌は柔く桃色に染まっている。無防備な項に、赤司は酷くそそられた。グラスを取ろうとした緑間の手を、そっと掴む。何も言わない彼の左手に自らの右手を絡めてやる。白くて細い指を楽しげに弄んだ。呆れたように緑間が溜め息を吐く。けれど手は振り払われる事は無い。それに気を良くして、赤司は一層強く指を絡ませた。 「…明日も早いのだろう?」 「関係無いよ。というか真太郎が悪いんだよ?」 「俺のせいにするな。盛っているのはお前だろう」 「ふ、そうだね。…でも、真太郎もだろう?」 緑間が、僅かに口角を上げた。赤司はそれを見て、楽しそうに目を細める。降り続ける雨の音が、次第に聞こえなくなっていく。どちらからともなく、2人は唇を重ねた。 降りしきる夜雨 |