「…なぁ、お前マジで頭良いわけ?」
「…悪くは、ないと、思います」
「……お前向いてねぇよ、この仕事」
「……そうですね」

小さなワゴン車の中、オレは頭を抱えていた。贔屓にしてくれている営業先へ、緑間を連れていったのは良かった。問題はその後だ。最初は特に異変は無かった。しかし、営業が無事に終わりかけた時、緑間が言ったのだ。それ間違えてます、と。まぁそれは事実だったし、先方もああ、ありがとうと言っていた。だが、緑間の言葉はそれで終わらなかった。どうしてその前に緑間を引っ張り出せなかったのか、後悔する事になった。緑間は先方との世間話の一部を、それは違う、あれも違うと指摘し出したのだ。一方的に、高圧的に。社会人としてあるまじき態度であった。オレがようやく緑間を止められた時、既に先方は怒り心頭だった。そっからは怒声、平謝り、追い出され、と散々だった。暫く、オレ達は閉められたドアの前に突っ立っていた。少ししてオレは血の気が引いて、ドアの前で何度も謝罪を口にしたがもうそれが開く事は無かった。

「あの人、何気にプライド高ぇんだよ」
「でも、気になって、」
「お前は空気を読む事を覚えろ」

でもでも言う緑間に拳骨を落として黙らせる。緑間はきっと、上手に世渡り出来ない典型的な例だ。素直なのは好ましいけど、それじゃ社会ではやっていけない。別に好きじゃねぇけど。逆にお断りしたいうざさだ。

「とりあえず帰んぞ」
「はい…」
「いつまでもうじうじしてんな、うぜえ」
「うじうじなんてしてません」
「それでいい」

ムッとした緑間に苦笑する。お前は生意気な方がしっくりくんだよ。そう言えば、緑間が呆然とした。なんだ、オレそんな変な事言ったか。オレの中じゃ普通の部類なんだが。いや、今思えばM発言にもとれるか…?段々ハラハラしてくる。嫌だぞ、Mじゃないからなオレは。

「分かり、ました…」

固まっていた緑間が、俯きながら微かな声で言った。よく分かんねぇが、まぁいいや。Mとか思ってたら殴りゃいい。ついでに忘却の彼方へ葬ろう。

「よし、帰るか」
「安全運転でお願いします」
「舐めんな、轢くぞこら」

オレはいつだって安全運転だ。


なんだかんだで甘い人


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