01 ボーカルが叫ぶように力一杯歌っている。ぼんやりと、今回は長いなと思った。ヘッドホンをし始めて、今日で5日目。いつもは1、2日程度で気にならなくなるのだが。長く続いたせいで、頭痛が治らない。鈍い痛みがひっきりなしにオレを襲っていた。これからまだ続くなんていう事になったらどうしようか。バスケの障害になりかねない。そうなれば、真ちゃんにも迷惑がかかってしまうだろう。それを考えれば、自然と溜め息が零れた。 「朝から溜め息など吐いて、どうしたのだよ」 後ろから不意に聞き慣れた声がして、振り返る。案の定、真ちゃんがそこにいた。今日のラッキーアイテムらしい、丸いクッションを抱えている。可愛い。 「おはよ、真ちゃん」 「おはよう。……よく気付いたな」 真ちゃんの隣に駆け寄って、ヘッドホンを外した。大音量の中でも、真ちゃんの声は聞こえる。なぜかはよく分かんないけど。てかそんな事言うならなんで話しかけたのって感じだ。まぁ、話しかけてくれたのが嬉しいので良しとする。あ、それと、もう一つ不思議な事がある。それは、真ちゃんの心の声が聞こえない事。ずっと側にいても全く聞こえないのだ。不調なのかと思えば、他の奴らの声は聞こえた。しかしどうしてか、真ちゃんの心の声だけが聞こえない。どれほど近づいても、遠ざかっても、聞こえないのだ。やっぱりこちらも理由は分からない。でも、真ちゃんの側にいれば周囲の雑音が気にならない。全部シャットアウトされて、頭痛も軽くなる。言うなれば、真ちゃんシェルターだ。またまた理由は不明だが、そういう体質なのだと勝手に考えている。だからこういう辛い時、オレは真ちゃんにべったりくっついている。普段から側にいるんだけどね。真ちゃんといるの楽しいし。 「高尾。お前、そんなものしていたか?」 「ん?ああ、これ?5日前くらいからしてっけど」 「む、そうか。気付かなかったのだよ」 「真ちゃん、オレに興味無さすぎだろ!」 真ちゃんに耳元を指差される。今更ヘッドホンに気付いたらしい。マジで興味無さすぎだろ。…ま、元々真ちゃんがオレなんか見てねぇのは知ってっけどな。いつも真ちゃんは真っ直ぐ前を見ている。周りなんて眼中に無いんだ。興味、というよりは、必要が無いって感じだ。周囲というその枠にオレも属している。そうだ、あの日だって、真ちゃんは目の前しか見ていなかった。オレが真ちゃんに初めて出会って、大敗した日。オレは悔しくて悔しくて、真ちゃんを睨んでいたのに、一筋の視線もくれなかった。そういう性格だって知っているし、理解もしているけど、そのままでいいと言えば嘘になる。だって、オレは真ちゃんが好きだ。友達とか、相棒とか、そんなん全部超えた、そういう好き。色々あって真ちゃんとは仲良くなったけど、もっと真ちゃんの側に行きたい。真ちゃんを知りたいし、逆に知ってもらいたい。けれど、真ちゃんの意識に入らないと何も始まらない。せめて目を向けてくれると嬉しいのだが、強要はしたくない。だから、真ちゃんが自分からオレを見てくれるように奮闘中なのだ。とにかく側にいて、存在を認めさせて。話しかけて、目を合わせて。頑張ってる、んだけども。 「やっぱ、手強いなぁ……」 「何を言っているのだよ?高尾」 「ううん、なんでもない」 思わず言葉が漏れてしまった。誤魔化しきれていないみたいで、真ちゃんは未だに不思議そうな顔をしている。適当にお茶を濁そう。 「そういえば真ちゃんてさ、いつも真っ直ぐ前向いてるよね」 「……気付いていたのか」 「そりゃ、相棒ですから!」 目には自信あるしな。まぁ、耳にもあるっちゃあるんだけど。真ちゃんが凄く冷たい目をしてるけど、気にしてない。オレ、気にしてないよ。ほんとだよ。というか、自覚はしてたんだな。寧ろ意識的な行動だったりするのか? 「……要らないものを見ないようにしているのだよ」 「要らないもの?」 要らないもの、ねぇ。……それってオレか!? 「え、そ、それってさ…」 「ん?なんだ」 「……ううん、なんでもない」 もし肯定でもされたら悲しいから聞くのは止めた。不意に予鈴が鳴って、皆が次第に席に着いていった。真ちゃんも椅子に座ったので、オレもそれに倣う。でも本当に、要らないものってなんだろう。結局オレなのか分からないけど。 (……なんか、引っかかるなぁ) |