自動ドアが開いて、緑間がコンビニから出てきた。あいつとコンビニって、あんま似合わねぇな。あれか、雰囲気がお坊ちゃんぽいからか。コンコン、と窓ガラスが軽く叩かれる。ゆっくり窓を開ければ、緑間が戸惑ってビニール袋を掲げた。いい匂いがする。 「先輩、お弁当買ってきました」 「おう、さんきゅ」 「…先輩」 「なんだよ」 困ったように眉尻を下げる。不覚にも可愛いとか思ってしまったのは言わない。今からオレは説教みたいなものをするのだから。 「あの、鍵、開けてくれませんか」 「…なぁ、緑間。オレはな、お前に何回同じ事言ったと思う?」 「え、」 「何度も何度も失敗して、オレに怒られて。そろそろ懲りろよ。…お前、ほんとこの仕事向いてねぇよ」 緑間があからさまに傷ついた顔をした。オレまで辛くなるからやめてくれよ。オレは情にあついんだ。オレの勇気が粉々になりそうじゃないか。例え緑間であっても、そんな顔をされればすぐ同情してしまう。でもそれじゃ駄目なのだから。 「…そんなの、知ってます。……けれど、どれだけ辛くても、俺は辞めたくないです」 「…緑間」 真っ直ぐに見つめられて、思わず視線を彷徨わせた。率直な思いが息苦しかった。 「その、最近、少しずつ仕事のやり方が分かってきたんです。遅いのは分かってます。でも、宮地さんとこんな風にしているのは…その、ちょっと楽しいのだよ…」 緑間が泣きそうな顔で、小さく笑った。照れているのか、頬が赤く染まっている。りんごみたいだ。色んな思いが複雑に絡まっているんだろう。そんな顔をしている。じわ、と心の奥の方が疼くのを感じた。緑間の瞳に溜められた涙が、煌めいている。それを見ていたら、あんな風に言ってしまった事を一気に後悔した。でも脳裏では、緑間の言葉を聞けて嬉しいなんて思ってしまっている自分がいる。それにムカついて、ドアを殴った。オレは最低だ。驚いて目を丸くしている緑間に、鍵を開けてやる。 「乗れ」 「え、せんぱ、」 「いいから黙って乗れ!轢くぞ!」 「…はい」 おずおずと乗り込んだ緑間から視線を向けられている。じぃっ、と見つめられている。穴が開きそうな程、見られている。そんな中で、オレが緑間の方を向けるわけが無い。ごめん、と言うべきなのだろう。どうしてあんな事を言ってしまったのか。そうだ、オレに怒られてばっかで辛いと思ったんだ。辛くさせてるのは完全にオレなんだけど。でもきっと、いつも先方からも怒られて、オレにも叱られて、そんなの辛いと思ったんだ。…今思うとなんかアホだ。考え方がアホっぽい。 「…あー、なんだ、その、みどり、ま」 「なんですか」 「……ごめん」 年下に謝るのってめちゃくちゃ恥ずかしい。それが緑間なら尚更だ。顔が赤いのが自分でも分かる。赤面してるのも恥ずかしい。 「……あの、先輩」 「…何だよ」 「今から自惚れた事を言います」 「…は?」 緑間が意味不明な宣言をする。思いがけない言葉に、緑間を見れば、オレを真摯に見つめていた。 「さっきの言葉って、きっと、俺の事思ってですよね」 だから、と緑間が続ける。オレを真っ直ぐに映す緑間の双眸は、存外に綺麗だった。 「宮地先輩、ありがとうございます」 そう言って、緑間は微笑んだ。笑顔って、こんな綺麗だったのか。そんな風に思ってしまうような、微笑。だから、つい自覚してしまった。自分の想いを。なんでこんな奴に、とか考えてもどうしようもないくらいの、それに。 「…あー、もう。クソッ…なんでだよ…」 「せんぱ、い?」 「…シートベルトしろ」 「へ、」 「出発進行!!」 「え!?」 まぁ、これは気長に解決しよう。 自覚したならもう最後 ≪ ≫ |