同じ部署に生意気な奴が入ってきた。しかも、オレが世話係にされた。だが、まぁそれは百歩譲って許そう。オレが少し耐えればいい話だ。それよりも最悪なのは奴の仕事振りだ。 「お前、何したんだおい」 「なんですか」 「さっきお前が行ってきたとこからクレーム来たぞ」 「…すいません」 「よし、分かった。轢き殺す」 去年大学を卒業したばかりの、所謂新社会人である緑間真太郎は、仕事が出来なかった。 営業不適合者 緑間は頭が良い。大学も主席で合格して、その成績を卒業まで維持したらしい。悔しいが、オレなんかよりよっぽど色んな事を知っているんじゃないかと思う。この前なんて「ステマの意味も知らないんですか」だなんて言われたのだ。その時ど忘れしていただけだのに。轢いてやりたい。だが、そんな頭脳明晰な後輩様にも苦手な事があった。簡単に言うならばコミュニケーションだ。まず、頭脳レベルの異常な高さに、周囲の人間は奴を敬遠する。それに加えて性格が酷く難しい。お世辞にも素直とは言えないし、年上に敬語は使うものの、辛辣な発言をする事がある。自尊心が高いのだろう、自分を曲げる事を嫌がる。生意気なガキだ。だから、緑間の交友関係はとても狭い。友人と呼べる存在なんて、2桁にも満たないだろう。というかいるのかすら危うい。だがしかし、オレにとってはそんな事どうでもいいのだ。最も大事なのは、奴のコミュ力の低さが仕事に影響する事だ。事務等のパソコンでやる作業とかは出来る。ウザいくらいに出来る。だから普段は何も支障は無い。だが、営業となると話は別だ。営業の時、緑間のコミュ力の低さと態度のでかさが悪影響を及ぼす。疫病神といっても過言ではない。相手を怒らせる事は元より、もう来るなと言われてしまう事もある。ウチの会社は事務より営業の方が重要なのだ。だからこそ、営業が出来ない奴は仕事が出来ない事と同等だった。 「もう、ほんとお前辞めれば?」 「…嫌です」 「じゃ営業出来るようになれ、今すぐに」 「…無理です」 「最初から無理って決めつけんなよ」 「じゃ出来ると思いますか?」 無理だな、うん。お前のプライドの高さじゃ絶対無理だ。でも自分で堂々と言うな、そのドヤ顔潰すぞ。まぁ、クレーム来て謝るようになったのは大きな進歩だ。以前までは、謝りすらしなかったのだ。自分が正しいという考えを歪めずに反抗ばかりしていた。本気で轢いてやろうかと思うくらいにはうざかった。 「お前、今度オレについてこい」 「は、」 「お前に営業のいろはを教えてやるっつってんだよ」 「………分かりました」 ありがとうございますぐらい言えねえのか、コイツは。ちゃんと仕事してくれりゃそれでいいけどな。 ≪ ≫ |