雨が、降っていた。
登校する時は暑いぐらいに快晴だったのに。
夕立だろうか。
激しく地面に打ち付ける雨に手を伸ばす。
少し衝撃が来て、次第に腕全体が濡れた。
空は真っ黒な雨雲で覆われており、まだ雨が止みそうにない事を示していた。

(濡れて帰るしかないだろうか)

この中を傘をささず帰る事を想像すれば、ため息が漏れる。

「赤司?」

聞き覚えのある声に振り向けば、予想通りの男がいた。

「遅かったな、緑間」
「鍵当番だったからな」
「お疲れ様」
「お前もな。しかし酷い雨だな」

目の前で降り続く雨を見やって、緑間が顔を歪める。
元々が整っているからか、歪めた顔も綺麗に思えた。

「赤司。お前、傘は?」
「残念な事に持って来ていないよ」

肩を竦めて苦笑する。
緑間は少し考え込むように目を伏せた後、徐に鞄を漁り始めた。
取り出したのは黒い何かだった。

「それ、なんだい?」
「折りたたみ傘なのだよ」

なるほど。
確かに折りたたみ傘だ。

「お前が使うといい」
「………え?」
「貸してやるのだよ」

ほら、と言うように傘を差し出す緑間。

「え、ちょっと待って。お前はどうするんだ」
「トレーニング兼ねて走って帰るのだよ」
「いや、風邪ひくぞ」
「お前がひくよりはマシだろう?」

至極当たり前のように言ってのけるが、それはおかしいだろう。
傘は緑間の物なのだし、風邪をひいて困るのはお互い様だ。
この男は馬鹿なのだろうか。
頭は良かったと記憶しているが。
中々傘を受け取らない俺に、緑間が不思議そうに首を傾げた。
身長195cmの大男に似合わない可愛らしい仕草に笑みが零れる。

「一緒に帰ろうか」
「は?…まぁ、構わないが」
「相合傘だね」
「………それは余計だ」


男同士で相合傘なんてのも面白いじゃないか。

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