すりすり。とても大きな手が、俺の少し大きな手をさする。誰もいない放課後の教室で、外は昼間のくせにあまり明るくない。曇っている。冬特有のよく分からない寂しさが紫原を襲うようで、たまに、暇なときは好きにさせてやっていた。テーピングの巻かれたこの手を触って何が楽しいのか。それともテストが今日ようやく終わったからか、紫原は退屈そうだった顔をやんわりと微笑ませていた。

「すきだよ」

不意に発せられた言葉に、窓の外から紫原へと視線を移す。お菓子好きの大男は目を閉じて、唇に柔く弧を描いていた。俺の手をさすりながら、すきだ、と穏やかにまた言葉を紡いだ。突飛な発言は不覚にも慣れてしまったからそこまで驚きはしない。それでも、紫原から目を離すことはできなかった。

「あなたが、すきだ」

木枯らしが鳴く。時間はひたすらたおやかに流れている。じんわりと、紫原が感じているものを俺もまたなんとなく思い知った。それを寂しさだと認めることは紫原はしない。だが俺が名前をつけるとしたら、それは寂しさなのだ。紫原は俺の手に触れることで、自分を慰めているように思えた。迷子みたいだ、と考えて、自分も大概同じようなものだと自嘲する。

「…なんだか、お前らしくないな」

そうかもね、と紫原はくすくす笑った。長い前髪の間から、睫毛が揺れるのが見えた。どうしてかきらめいているように見えて、思わず目を見張る。蛍光灯は機能していない。外はやはり雲一面だ。不思議でじっと見つめれば、次第にきらめきは息を潜めた。

「オレは変わったの」

かわってしまったんだよ。
伏せられた瞼の奥で、お前はどんな表情をしているのだろうか。俺には絶対に分からないことだ。でもきっと、ひどくうつくしい。


純銀睫


title by カカリア

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テーマ「人外ファンタジー」
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