じゅわり。果汁が溢れ出した。

「甘いな」

染みるくらいの甘さに、宮地は思わず舌を外気に晒した。甘い物は嫌いではないが、甘過ぎるのは余り好まない。ましてや、普段はそこまで甘くない果物がこうも甘いと、違和感を感じてしまう。木村に貰った物だったが、宮地の口には合わなかったようだ。

「そうですか?」

隣に腰掛けた緑間が、首を捻る。お汁粉漬けのお前とは舌の構造が違うんだ、そう思ったが言わなかった。代わりに手に持った蜜柑を緑間めがけて放る。緑間は慌てながらも無事に蜜柑を救った。一方的に投げた事に憤慨したのか、宮地を睨みつけた。たいして萎縮もせず、宮地は緑間の視線に対抗する。

「食わねーなら返せ」
「食べてやるのだよ、全部」

常の宮地ではそれを許す事などない。だが、いかんせん味が味だった。緑間が蜜柑を頬張るのを、宮地は静かに眺めた。

「あ、本当に甘い」

緑間が口の端に垂れた汁を拭いながら驚いた顔をする。だから言っただろ。宮地は呆れた。意地でも信用しない気だったのだろうか。それとも、緑間の蜜柑が甘くなかったのか。宮地にとっては食べるのも億劫な蜜柑を、緑間は美味しそうに口に放り込んでいた。手持ち無沙汰になった果汁塗れの両手を見つめ、次に緑間の手を見た。蜜柑がふたつ。となれば、選択肢はひとつだ。

「お前の寄越せ」

宮地は半ば強引に蜜柑にかぶりついた。それは勿論、緑間の片手に放置されていた方。緑間を見上げれば、眼鏡の奥で瞳が精一杯見開かれていた。じゅわり。果汁が溢れ出した。

「あ、酸っぱい」


水菓子


title by カカリア

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