!死ネタ
!数年後
!多分バッドエンド




嫌な夢を見た。真太郎が死ぬ夢。屋上から落下してきた真太郎は、それはそれは美しく笑っていた。けれどもっと嫌なのは、それを見届けた僕が高らかに笑っていた事だ。まるで何か面白い事があったかのように、笑い続ける。それが、とてつもなく嫌だった。荒い息を整えようとするが、なかなか思い通りにならない。全身に冷や汗をかいている。寝巻きの袖で額の汗を拭った。心臓がバクバクと煩い。取り敢えず水を飲みに行こうと、ベッドから這い出る。少し歩けば、すぐに台所だ。今ではもうこの小さなアパートにも住み慣れた。父には断固として反対されたが、僕は自分の足で地を踏みしめたかったのだ。いつまでも父の鳥籠の中で胸を張っていたくはなかった。怒鳴りつけられた時が脳を過って、苦く思った。透明のコップに水を汲んで、一気に飲み干す。束の間の冷たさに息を吐いた。少しだけ落ち着いた気がする。寝室に戻ったら、携帯が誰かからのメールを知らせていた。送り主の名を確認して、思わず顔を強張らせる。真太郎だった。件名は空欄。先程の事もあり、少しメールを開くのを躊躇った。ふぅ、と一息吐いて決心する。

『今日は満月だな』

普段通りの、なんてことない内容だった。途端、身体の芯から崩れ落ちる。どうやら緊張がとけて力が抜けたらしい。でも、良かった。何か物騒な連絡ではなくて。押し寄せた不安が一気に過ぎ去って、すっきりした。すっかり汗も引いていて、安眠出来そうだ。携帯を片手に、ベランダへ出る。真太郎のメールの通り、満月だった。

『そうだな、綺麗だ』

短く返信をして、穏やかな気持ちで月見をする。黄色がかった光が、とても輝いて見えた。真太郎も今同じように空を見上げているのだろうか。頭の中で月を見る真太郎を思い浮かべる。なんとなく、隣り合っているように思えた。そういえば、最近は余り会えていない。声は電話で聞いているが、やはり会えないのは寂しい。そうだ、今度の日曜が空いているから、会いに行こう。久しぶりの東京で2人で存分に遊ぼう。何をしようか。外に出るのはそこまで好かないらしいから、真太郎の家にお邪魔させてもらおうか。きっと快諾してくれるだろう。真太郎の妹は今いくつだろうか。僕に随分と懐いてくれていたが。懐かしい記憶が巡って、自然と広角が上がった。そのまま思い出に浸っていたら、不意に現実に呼び戻された。何かと思えば、真太郎からの返信だった。

『電話しても大丈夫か?』

勿論、と返せば、暫くして携帯が着信だと鳴いた。

「もしもし」
『夜遅くにすまない』
「いいんだよ」

耳に馴染む低い声が心地良い。前に、真太郎の声は人を癒せるよ、と言ったら照れてそっぽを向かれた。今でもその思いは変わる事はない。

「どうしたんだい?」
『…お前、今月を見ているか?』
「ああ、見ているけれど?」

疑問を投げかければ、真太郎が押し黙った。何かあるのだろうか。月が関係する話なのか?

『征十郎』
「!…なんだい?」

普段は照れてしまって、中々呼んでくれない僕の名前。突然の事に、気分が高揚するのを感じた。

『…お前を、愛してる』

その時、何かが落ちてきて。ぐちゃり、と音がした。僕は真太郎の言葉に照れる事も出来ず、携帯を落とした。液晶が砕け散る。瞼の裏に焼き付いていたのは、夢で見た真太郎の顔。この世の終わりみたいに美しい、あの笑顔だった。それが、たった今目の前にもう一度現れた。信じられなかった。身体が震えている。恐る恐る、ベランダから下を覗く。真っ赤な血の中で、真太郎が笑っていた。その四肢が、好き勝手に曲がっていた。

「……あ、は、はは、は、」


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