俺は、緑間が好きだ。

そう自覚したのはつい昨日だ。

でも多分もっと前から好きだった。

なんで今まで気づかなかったんだろう、と思ったがそんなの分からないし考えるのも面倒なのでやめた。

「青峰っち、強すぎっス…」

「おめーが弱過ぎんだよ」

1on1が終わり、黄瀬がため息をつく。

もちろん俺の圧勝だ。
てか考え事してた俺に勝てないってどういう事だ。

「ほんとよえーな、お前」

「なっ!?ひでぇっスよ、青峰っち!」

「あー、はいはい」

まだ何か黄瀬が喚いてるようだがそんなのは無視して、向こうでずっとシュート練をしている男を見やる。

丁度シュートをしている最中だった。

宙に浮く緑間の手から滑らかにボールが放たれる様はすごく綺麗だ。

相変わらず異常に高いループを描いて、リングに掠りもせずゴールに沈むボールを追いかけ、無意識に目線を緑間に戻す。

「…ぁ、」

掠れた声が知らず知らずに漏れた。

太陽の光に煌めく、緑色をした瞳が俺を捉える。

きれいだ、と思った途端逸らされた。

最近、こんな風に目が合う事が増えた。

これは脈アリなのかなんて、調子に乗って痛い目なんて見たくないから考えない。

ただの勘違いだ。
自意識過剰なだけだ。

そう言い聞かせるが心は高鳴ってどうしようもない。

馬鹿だな、俺は。

てか脈アリでも告白なんてできねぇし。

あいつに好きとかどうやったら言えんだよ。
好きとかいう感情すら理解してなさそうなあいつに。

あ、いや、今のはただの言い訳か。

俺が素直になれないだけだ、なんて分かってんだけどなぁ。
分かってても、素直になんてなれねぇんだよな。

でも目はあいつを追っちまうし、ほんとどうしようもねぇな、俺。

「……って、青峰っち!聞いてるんスか!?」

「あ!?うっせーよ、聞いてねぇよ!」

「ちょっ、さいてーっス!」

緑間っち〜!とアホ犬が緑間に泣きつく。

当の緑間は面倒そうな顔をしているがなんやかんやで話を聞いてやっている。

緑間まじオカン…。

ていうか黄瀬何抱きついてんだゴラ。
うぜーんだよ、ちょっと離れろ。

だが、緑間も嫌そうな顔をしながらも無理やりに引き剥がさない辺りが憎らしい。

なんだよ、お前も満更じゃねぇってか。

あー、まじムカつく。

って、これ嫉妬かよ。

うっわ、まじないわー。

ほんと馬鹿じゃん、俺。
どんだけ緑間の事好きなんだよ。

駄目だ、このまま見てたらもうブチギレそうだから見ないでおこう。

なんて思ってもやっぱ見ちゃうわけで。

未だに黄瀬に泣きつかれている緑間がふと、こちらを見て口を動かした。

たすけろ

はっきりと分かったその言葉に、なぜか嬉しさを覚えたと同時に口パクなんていう、不意打ちの可愛い行動に顔が熱くなるのを感じた。

慌てて顔をタオルで隠し、そっと緑間を見る。

幸い、緑間は既にこちらを見ておらず、それに安心した瞬間、自分の鼓動の速さと大きさに驚いた。

口パクだけでどんだけ動揺してんだよ、俺…!
やべ、どうしよ、今緑間直視できねぇ…。
つか顔あげらんねぇ!

ちらり、と緑間を盗み見れば、緑間の助けを求めるような瞳と目が合う。

咄嗟に逸らしてしまい、一刻も早く練習を再開したいだろうに無視された緑間の事を思い、心の中でごめん、と謝る。

そして顔が見えないように2人に背を向けて叫ぶ。

「黄瀬!もっかい1on1すんぞ!まぁ今度も俺の勝ちは確定してっけどな!」

「あっ、言ったっスね!?負けたら土下座して「俺が間違ってました、ごめんなさい黄瀬様」って言ってもらうっスよ!」

「はっ、いいぜ!俺に勝てんならな!ただしお前が負けたら「クソナルシのくせに調子乗ってすみません、青峰様」って言えよ!」

「上等っスよ!ってクソナルシってなんすか、最低!」

なんかアホみたいな賭けがくっついてきたが、緑間から黄瀬を離す事は成功したみたいだ。

俺が負けるわけねーし、これでいいだろ。

さすがに顔も元に戻ってきたみてーだし。

だが、そこで油断をして緑間を見たのがまずかった。

だって、あんな顔をしているなんて、思ってなかったんだ。

振り返った先にいたのは、優しく笑んだ緑間だった。

思わず目を見開いた。

緑間が俺の視線に気づいて耳まで真っ赤にして俯く。

やばい。
どうしよう、本格的に。

可愛すぎんだろ、まじで。

あんな笑顔、見た事無い。

顔が急激に火照るのを止められない。

どうしよう、好きだ。

ほんと、好きだ。

「青峰っち、どうしたんスか?めっちゃ顔真っ赤っスよ?」

ずっと黙って俯いている俺の顔を覗き込んで黄瀬が言う。

そんな黄瀬をとりあえず殴る。

「いった!ちょっと、何すんスかっ!オレ一応モデルなんすから顔殴んないで下さいっスよ!」

「うっせぇよ!暑かっただけだよ、馬鹿!」

「は!?何言ってんスか、意味分かんねぇっスよ!」

「てめぇが聞いたんだろうが!」


恋煩い、なんて言うけどさ。



多分、俺はかなりの重症だ。

あの後、部活中ずっと鼓動が落ち着いてくれなかった。

それは今、家にいる時でも顕著だった。

ほんとやべぇ、あの笑顔が頭から離れねぇ…!

まじなんなんだよ、あれ。

あんな優しい表情できんのかよ。

あんな表情、誰に向けて…。

あ、なんか嫌な事考えちまった。

馬鹿かよ、俺。

そんなん考えるだけ無駄なのに。
自分が勝手に傷付くだけなのに。

急に心が冷えて、頭を掻き毟る。

なんか今日、あいつの事考えすぎだな…。

「…風呂入ろう」


***


風呂からあがって自分の部屋に戻ると、携帯が光っていた。

メールか。

ひょい、と携帯を取り、画面を見て言葉を失う。

そこに表示されていたのは、今日散々俺の心をかき乱した奴の名。

「みどり、ま?」

緑間真太郎ーー画面上にその名前が浮かんでいた。

緑間は元々携帯をあまりいじるタイプでなく、また、青峰も緑間とはメールのやり取りをする気も無かったのでこれは珍しい事だった。

だが、それ以上に緑間からのメールに全身が歓喜したようだった。

急いでメールを見ると、そこには『今日は助かった。…その、感謝するのだよ』とあった。

メールじゃ素直だな、とかわざわざ礼なんて律儀だ、とか思った。

だがそんな事よりも、ただただその無機質な文字達が愛おしくて、頬が緩んだ。

絵文字も何も無い殺風景なメールなのに、嬉しくて嬉しくて。

あいつの気持ちがすごく伝わって。

好きだ、なんてまた思った。

あ、そうだ、返信はどうしよう。

いつもの俺ならきっと「そんなん、別にいいけど」なんて返しているだろう。

けど、なんでか指がそう打とうとしなかった。

ただ、脳内にあったのはメールなら想いを伝えられるんじゃ、という思い。

でも、そんなのは甘い考えだとすぐに分かった。

好きだなんて、メールでも無理に決まってる。

ていうか、送ってもフられんのが目に見えてる。

あいつが俺の事を好きなわけない。

そう頭では理解してるのに、心はそんなのお構いなしで、実は両想いなんじゃないかなんて思ってドキドキしてる。

怖いけど伝えたい。
けどやっぱ無理。

そんな事を延々と考えて、気付いたらもう30分も経っていた。

「げっ、早く返事しねーと!」

けど、なんて?

いつも通りの言葉を?
それとも、好きだと?

普通に無理だろ。

いつも通りも、なんかなぁ。

画面を睨みつける。

けれど何も浮かんでなどこなかった。

「…あー、もうどうすりゃいいんだよ!」

じっ、と真っ白な文面を見つめる。

もう、いっその事このまんま送ってやろうか。

そんな考えがよぎる。

さすがにそれはどうなんだ、とか思いつつも、もうそれ以外の良い案なんて無い事に気づいていた。

ひとしきり考えてから、よし!と一人気合いをいれて送信ボタンを押した。

あいつどんな反応すんだろ、なんて思ってボタンを押す指が微かに震えてたのなんて、見ないふりした。

きっと俺の想いなんて気付かねーだろうけど、それでも万が一、万が一にも、欠片だけでもお前に届くなら。



それでいい、と呟いた。


***


待ちわびていた着信音が聞こえて、心が踊るのを制して携帯を開く。

表示された名前に思わず顔がニヤける。

いけない、と思い顔を元に戻すが胸中は嬉しくてはずむばかりだった。

いそいそとメールを開いて、文面を見て。

「…………」

そこには、何も無かった。

比喩とか、ふざけているわけでなくて。

スクロールすれば何かあるかも、と思ったが本当に何も無かった。

1時間以上悩んで悩んで悩みぬいて送った感謝のメールに、30分以上も待たせてこれだけというのは酷い、と普通は思うだろう。

けれど彼はそう思わなかった。

何故か、その真っ白な文面が愛しく見えて仕方なかった。

もしかしたら、何と打とうか悩んでくれたのかもしれない。

たとえ、そうでなくとも意味も無くこんなメール送らないだろう。

まぁ、それはいたずら目的なのかもしれないが。

色々考えたが、やはり無性にこのメールが愛おしい。

理由なんてまったく分からない。

何故か、どうしようもなく、心が踊る。

数分、そのメールをじっと見つめ、ふと返信ボタンを見て、けれどもそれを押そうとは思わなかった。

このメールに返事は要らない気がしたからだ。

別に悪い意味でなくて。

あいつは返事を待っていない気がした。

だからずっと、真っ白なメールを眺めて彼は微笑んでいた。


ありがとう、なんて思いながら。

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