緑間っちは、気まぐれな猫みたいだ。

「緑間っち、構ってほしいっス」
「…後でな」

お家デートしているというのに、緑間っちは本を読んでいる。難しい漢字ばかり並んでいる堅苦しい本だ。オレには到底読めそうもない。てか読みたくない。
デート中に本を読まれるなんて、つまらない事極まりない。仮にも恋人なんスよ?普段部活で忙しいぶん、休日ぐらいはいちゃいちゃしたいんス。

「ねぇ、緑間っち」
「なんだ」

どれだけ話しかけても目線すらよこさない。こんなんじゃ無視とそう変わらないじゃないスか。

「本読むのやめてほしいっス」
「嫌なのだよ」
「じゃあ構って」
「…しつこいのだよ、なんだ」

ため息と共に緑間っちがやっとオレを見る。盛大なしかめっ面だ。読書タイムを邪魔されて怒っているみたいだ。デート中に読書されるオレの方が怒りたいんスけど。まぁ、こっち向いてくれただけいいっス。

「まず本しまってほしいっス」
「…嫌だ」
「えええ?構ってくれるんじゃなかったんスかぁ?」
「構ってやってるだろう」

そんなドヤ顔で言われても可愛いだけ…じゃなかった、構ってるなんて言えないっスよ。
構ってると言うのなら、ダメもとで言ってやろう。これが嫌だと言われたらそれまでだ。
緑間っちの細い腕を柔く掴む。

「…じゃあ、キスしていいんスか」

緑間っちは少し固まった後、ふ、と微笑んだ。


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さっきから黄瀬がうるさくて仕方ない。
デート中なのに読書なんてしているからだろう。でも俺にだって理由はあるのだよ。
デートというものはいつだって緊張するのだ。
服装だって悩むし、夜も眠れない。黄瀬にどう思われるか、それが気になって仕方ない。口を開けば暴言ばかり出そうだ。
そんな思いを隠すために、ひたすら本を読んでいるのだ。
本当は恋人らしい事もしたい。でもそんな浅ましい人間だとは思われたくない。だから本に逃げてしまう。
また黄瀬が構ってと言う。俺はそれにしつこい、としかめっ面しかできない。我ながら素直じゃない。
黄瀬は意気消沈した顔をしている。はぁ、と一つため息を吐いて俺の腕を掴んだ。

「…じゃあ、キスしていいんスか」

吃驚して、それでも嬉しくて。
黄瀬の縋るような瞳に、そっと笑んだ。

「馬鹿め」

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