ごめんなさい、ごめんなさい。
途切れ途切れに、黄瀬はそう呟いていた。怯える子供のように、身を縮こまらせて、震えた声で。
ベッドに沈んだ重い体を、ゆっくり起こす。乱れたシーツを、手でそっとなぞった。そのまま撫ぜた眼鏡は、少し歪んでいた。歪んでしまった視界では、これが現実か夢かも分からなく思えた。しかし容赦の無い腰の痛みが、これは現実だと叫んでいた。
仄暗い、その部屋には雄臭い匂いが充満している。そこで先程まで行われていた行為を思い出すまでもない。それは瞼の裏に焼き付いていて、鈍く光っていた。
サラサラとした金髪が、震える。くぐもった懺悔は、まだ終わらないようだ。いつしか、微かな嗚咽も混じり出していた。
やはり子供のようだ、と緑間はどこか冷静に考える。叱られるのが怖くて、けれど愛されたい。都合の良いものだ。
しかしそれが人間なのだろう。惨めで卑しい、そんな欲望の塊だ。
お前も同じだ、と心の奥底で誰かが嘲笑った。常ならば否定するのに、今だけは素直に受け入れていた。そうだ、同じだ、人間なのだから。
されど、黄瀬の行動を全て受け入れるだけの器量は無かった。

「……黄瀬、頭を上げろ」

好き、という言葉が未だ耳に残っている。どれだけ緊張したのだろう、握り締めた拳は白くなって、震えていた。けれども、黄瀬の瞳は透き通っていた。綺麗なそれに映る自分が、何の驚きも示していないのに驚いたものだ。
その後に緑間が紡いだ言葉は、本能からとも言えた。そして黄瀬は、花開くように笑ったのだ。

「もう謝るな。終わった事だ」
「……緑間っち」

薄暗い中で、黄瀬の潤んだ瞳が淡く煌めいた。その輝きに網膜を貫かれて、頭が真っ白になるような気がした。
今まで脳内を渦巻いていた全てが、どうでもよくなっていく。

「ごめんなさい、もう、もう、しないから、嫌いにならないで、」

頭がすっきりとしていた。
ただ、残ったのは愛しい言葉と焼き付いた記憶だけだった。網膜に在る彼も、鼓膜に在る彼も、どちらもよく見知った目の前の男だった。
黄瀬は黄瀬でしかないのだ。
ならばどうして嫌いになれようか。自分の想いは奴に向いているのだ。

「黄瀬、」

もし黄瀬が間違えたなら、それごと愛せばいい。
それが、緑間なりの愛だった。

「……帰るのだよ。送れ」
「……へ、」

呆然とした黄瀬に、緑間は頬を緩めた。

(次は許さないのだよ、次はな)

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