だだっ広い部屋の真ん中で、青峰と火神はじぃっと睨み合っていた。 「おい火神ぃ?どんだけ迷ってんだよぉ」 「うっせぇ!いいだろ、別に」 「ほら、早くしろよぉ」 青峰がにやにやと笑って、挑発するように言う。火神はこめかみに青筋を立てながら、指を惑わせる。 こっちだと思い引き抜けば、カラフルなピエロが嘲笑っていた。 「残念だったな」 「別にまだ負けると決まったわけじゃねーよ」 「はいはい。ほら、早く」 火神は不機嫌そうに顔を更に歪めて、両手を差し出した。 「あー…こっちだな」 「あ、」 「ふ、オレの勝ちだ」 火神の手元に残ったのは憎々しいピエロ。その腹の立つ嘲笑を、机に叩きつけた。 「くっそ、また負けた!!」 「はっ、10戦全敗とかどんだけ雑魚だよ」 「るせぇ!もっかいだ、もっかい!!」 「いいぜ、何回したって勝敗は変わんねぇがな」 次こそは勝つ、などとぶつぶつ呟きながら、机の上に無造作に散らばるカードを纏める。 青峰と火神は、ババ抜きをしていた。 全ては青峰が、突然火神の家を訪ねた事から始まる。 招いてもいない来客に、火神が呆然している中「トランプしようぜ」などと言ってきたのだ。浅黒い大きな手には、トランプが握られていた。 よく分からないまま、リビングに押し込まれて何故かババ抜きが始まった。 そして負けに負け続け、現在に至る。 「ほらよ、お前の手札だ」 「さんきゅ」 青峰の元に、半分のトランプが渡る。 机の滑り具合を利用したらしく、数枚零れ落ちていった。 けれど青峰は大して怒りもせず、拾い集めて手札を眺めた。10連勝してご機嫌らしい。 対照的に、火神からは闘志が溢れ出している。トランプを睨みつける瞳は、真剣そのものだった。 お互い揃ったペアを捨て、勝負が始まった。 最初は火神が優勢に思えた。だが、だんだんと変化していき、気付けば火神は完全な劣勢だった。 「お前…なんでこんなババ抜き強ぇんだよ」 「おめーが弱ぇんだよ」 「黙れ、ガングロ」 「あぁ!?もっかい言ってみろ!ほら!」 バァン、と机を叩いて青峰が立ち上がった。火神もトランプを叩きつけて応戦する。 「ガングロつったんだよ、聞こえなかったか!?何回でも言ってやるよ、ガ・ン・グ・ロ!!」 「上等だ、割れ眉毛!!」 「あの、君達うるさいです。近所迷惑ですよ?」 「「黙ってろ!…って、」」 「黒子ォ!?」「テツ!?」 「はい、黒子です。テツです」 青峰と火神が驚いて声のした方を見れば、黒子が佇んでいた。 開いた口が塞がらない2人の間に投げ捨てられたトランプを見て、黒子が口を開いた。 「なんでトランプが喧嘩に発展するんですか」 「「……だってこいつが」」 揃って相手を指差す両人が、再び喧嘩を始めそうなのを諌めて黒子は嘆息した。 「取り敢えずこれ仕舞いましょう」 無惨なトランプ達を指差せば、2人は大人しく頷いた。 片付けの間、青峰と火神は反省しているのか、終始無言だった。それを見て黒子は少し笑みを零した。 幸いカードに傷は殆どついておらず、綺麗なままだった。 ケースに丁寧に納めて、黒子が顔を上げる。そこには不貞腐れた子供が2人もいた。 「ほら、早く仲直りして下さいよ」 「「なんでコイツと仲直りなんかしなきゃいけねぇんだよ」」 息ぴったりの反抗に、黒子は苦笑する。 睨み合う2人はまるで猛獣の縄張り争いだ。掴みかかりそうな程威嚇し合っている。 やっぱり似たもの同士ですね、なんて思いながら黒子は立ち上がった。 「僕帰りますね」 「さっき来たばっかなのにもう帰んのか?」 「もう少しいろよ、テツ」 「オレん家なんだけどな?」 「ごちゃごちゃうっせぇよ」 また威嚇し始めた2人に、黒子は呆れた。 「用は済んだので」 「用?ってか黒子、お前何しに来たんだよ」 「駅前でマジバの割引券貰ったので、君に上げようと思って」 いつの間にか、机の上に小さな紙切れが置いてある。火神はバーガー全種10%割引、と書かれたそれを摘まんで首を傾げた。 「黒子、お前もマジバ行くのにいいのか?」 「大丈夫です、シェイクの割引券は確保済みです。抜かりはありません」 「そうなのか。ま、ありがとな」 「構いませんよ。あ、それ2人分あるので2人で行ったらどうです?」 黒子の提案に、青峰と火神は顔を見合わせる。数回瞬きした後、揃って2人は笑った。 「「ねぇわ!」」 その3日後に2人で楽しそうにマジバにいるの見ましたけどね by黒子 |