スタメン用の部室は、軽いミーティングをしていた赤司と緑間以外、既に誰もいなかった。外からも全く物音が聞こえない。下校時間も迫っているのに、2人は着替えもしていなかった。
何故着替えていないのか、それは赤司が原因であった。



「緑間、シャツを貸せ」

突然そう言い放った赤司に、緑間は驚いた顔を隠せないでいた。それに笑んだ赤司が、着替えようと持っていた緑間のカッターシャツを奪い取る。どこからか取り出した赤いマジックのキャップをはずした。
何をされるのかまったく分からなくても、嫌な予感しかしなかった。

「おい、赤司、何をするのだよ」
「少しシャツを借りるだけだよ」
「いや、そのマジックはなんだ」
「え?ああ、待ってて。今見せてあげる」

いや、だから、と緑間は焦ってシャツを取り返そうとする。けれども、赤司は伸びてくる腕を華麗に避けていく。
少し離れた所で赤司が振り向いた。

「緑間、俺の言う事が聞けないのか」

芯の通った声と瞳に、緑間は逆らう事が出来ない。
緑間は、悔しそうに唇を噛んで目を伏せた。そんな彼に赤司は優しく微笑んで、それでいい、と言った。
ベンチの上にシャツを置いて、その裏側に文字を刻み始める。緑間は成す術を無くしたまま、それを黙って見つめていた。
書かれていく文字を見て、緑間は驚く。

「赤司、お前、」

ふふん、と鼻歌交じりに、赤司はマジックのキャップを閉めた。
シャツの裏の丁度左胸辺りに刻まれたのは、「赤司」という2文字であった。赤色のそれは、真っ白なシャツによく映えていた。
それはまるで、所有権を示しているようで。

「…どうしたんだい、緑間?」

赤司が至極楽しそうに見つめた先には、顔を真っ赤にした緑間がいた。分かっているくせに、と思いながら緑間は赤司を睨みつける。
そんな緑間の頬を包み込んで、赤司は目を細める。

「緑間、お前は俺のものだよ」

言い聞かせるようなその言葉に、緑間は小さく息を吐いた。

「…おい、赤司。緑色は無いのか」
「え?あるけど、どうしてだい?」
「いいから貸せ」

差し出された緑のマジックをひったくって、訳の分かっていない赤司を置いて歩き出す。赤司のロッカーを開けて、カッターシャツを取り出した。先程の赤司のように、それをベンチに置いて、マジックで何かを書き出す。

「え、ちょ、緑間、」
「…フン、これでいいのだよ」

どうだ、と言うように掲げたのは赤司のシャツ。そこには「緑間」と記してあった。
赤司は驚いて口が塞がらないようだった。

「どうしたのだよ、赤司」

挑発するような瞳でありながら、顔は先刻よりも赤い。どうやらヤケクソのようだ。

「俺がお前のものならば、お前だって俺のものだろう」

僅かに拗ねたような声音に、赤司は緑間を抱きしめた。

「…もう、お前には敵わないな。好きだよ、緑間」
「…知っているのだよ」

お互いの高鳴る鼓動を聴きながら、2人は笑った。




翌日、赤司の機嫌がいやに良かったのは言うまでもない。

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