デスタは子供だ。

「なまえ」
「ん?」
「眠れねぇ」
「……で?」

クッションをギュッと抱いたまま、真夜中にデスタが私のところにやって来た。こんな事は毎度の事だから、別に驚きはしないけれど。デスタがこんな時は必ず、私に添い寝を要求する。

「一緒に寝ろ」
「嫌だよ」
「は?ふざけんな見捨てんのかよ」
「一緒には寝ないけど、子守唄なら歌ってあげるよ」
「……子守唄?」

そ、子守唄、と私が繰り返せば、何だそれはと首を傾げるデスタ。まったく、そんなところが子供っぽいなと私は小さく微笑む。勝手に家に住み着かれた時は、正直腹が立ったけれど。今となっては私にとって、デスタは手のかかる可愛い弟だ。

「子守唄っていうか、私が小さい頃歌ってもらった歌……大きな古時計って知ってる?」
「知らねぇ」

じゃあ歌ってあげるよと言えば、デスタは黙って頷き私の手を取った。そしてそのままデスタの部屋へと半場強制的に連れていかれる。まだあまり生活用品の整っていないデスタの部屋に入ると、窓から降り注ぐ月の光でとても眩しかった。なるほど、これでは眠れない。後でカーテンを新調してあげよう。

「おい、早くしろよ」

「はいはい…」

当のデスタは、ベッドに潜り込んで私に子守唄を催促する。あまり興味が無いのかと思ったら、そうでもないらしい。長い睫毛の下に覗く大きな瞳は、期待の色でキラキラと輝いていた。

「あまり上手くないよ」

「そんなの今更じゃねえか」

ベッドの端に身を寄せて、私は目の前に投げ出されたデスタの手を握る。まだほんの少しあどけなさの残るその手は、とても温かい。手を握られたデスタは少し、不快そうに眉を寄せたけれど。私はそれがただの照れ隠しである事をよく知っていた。

「じゃ、いくよ」








* * * * *








「はい、終わり……って、まだ起きてるし」

歌い終わってもばっちり両目を開いたままのデスタに、私は小さくため息を吐く。寝る努力をしなさいよ、と私はデスタの無防備な額にでこぴんをお見舞いした。すると普段なら怒るはずのデスタが、私の手を握る手に少し力を込めて、小さくぽつりと呟いた。

「じいさんは、魔界に来ねえのか?」
「え?」

それは、とても寂しそうな声だった。しかし私はデスタの言葉の意味が分からず、ただ首を傾げる。デスタにとって、それは単なる素朴な疑問だったのかもしれない。けれど人間の観点を持つ私には、その真意を捉えることができなかった。

「どうして、魔界に?」
「天国に昇っちまったら、セインの奴しかじいさんに会えねえじゃねえか」
「……デスタは、おじいさんに会いたいの?」
「あぁ。でもセインの野郎には絶対に会いたくねえ」
「……」

呆れるほど、なんて子供染みたことを言うのだろか。そして同時に、本当にこんな純粋な子が悪魔なのかと、一つの疑念も浮かび上がって来る。悪魔は人を騙すもの。深く信用し過ぎてはいけないと分かっていても、デスタには時折、信頼以上の気持ちを寄せてしまう。

「おじいさんは、優しい人だったし、悪い事をした人じゃなかったでしょ?」
「……」
「だから、天国に行けたんだよ。魔界に堕ちる人は、悪い事をした人達だけだから、おじいさんは魔界に行かないんだよ」
「……そう、だよな」

そう言って、デスタは寂しげに眉を寄せ瞳を伏せた。そして暫くの沈黙の後、その瞳がもう一度開かれた時、デスタの山吹色の瞳は悲しげに水気を含んで揺れていた。ずずっと、大きくデスタが鼻をすする。

「なまえ、」
「なに?」
「お前もきっと、いや……絶対に魔界になんて来ないんだろ?」
「え?」

眉がだんだんハの字に変形し、潤んでいたデスタの瞳からは透明な液体が一筋頬を伝い落ちて、枕カバーに染み込んだ。ギチギチと骨が軋むほど手を握られ、少し痛い。多分、デスタが今言っているのは、私が死んだ後の話。

「デスタ」
「お前も、じいさんみたいに悪い奴じゃねえから……っ」
「……」
「俺の手が届かない、天国に、セインの所に……」
「……デスタ」

嗚咽混じりに話すデスタの髪に手を伸ばし、そのまま優しく撫でた。そうすると少しだけ、デスタは落ち着いたようだけれど。それでも未だに、デスタの瞳には透明な雫が溢れていて、今にもどっと流れ落ちてしまいそうだった。

「話が飛躍し過ぎだよ、私はここにいるじゃん」
「ずっと一緒じゃなきゃ嫌だ……」
「ずっと一緒だよ」

私はデスタに、感謝しているんだ。家族がいなくて一人ぼっちだった私の、家族になってくれた。だからついつい、甘やかしてしまう事もあるんだけれど。私はデスタと過ごした日々に、何一つ後悔はないよ。

「じゃあ、さ」
「……」
「私が天国に行かないように」
「なまえ…?」
「デスタが私を、魔界に連れて行ってよ」

本当は私も、おじいさんみたいに天国に行きたかった。そこに行けば、誰でも幸せになれると聞いたし。でも、諦めよう。だって私はデスタのいない寂しい天国で、絶対に幸せになれるはずがないのだから。

「……分かった、約束する」
「うん」
「セインの奴には、絶対にお前を渡さねえ」
「だから、話が飛躍し過ぎだよ」

そこで漸く、デスタの表情に笑顔が広がった。つられて、私も笑う。まだ涙の乾かないその顔には、やはりあどけなさが残っていた。その笑顔は、今この部屋に降り注ぐ、月の光よりも眩しい。



そして、少年は大きく飛躍するだろう。儚くも懐かしいあの丘を目指して



おやすみ、デスタ。




▽up,down!

ぎゃあああ
意味分からん作品ですみません!
そして果てしなく長いうえデスタくんが疑似ですみません!
取り合えずデスタくんマジ天使。
デスタくんは晴矢よりお馬鹿でなおかつ精神年齢が低いといい。

up,down!様、このような素敵な企画に参加させて頂き、真にありがとうございました!
これからも天魔の発展を心より願っています!

管理人:デ紫

2010.12.23









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