短編 | ナノ

お気に入りにはリボンを

『あのノイトラ様……私そろそろ』
「あ?文句でもあんのか」
『なっないですうううぅぅっ!!!!』


なんで、いったいどうして。
そんな疑問はもうこれでもかというほど答えを探した。そして見つからなかったのだ。
何で私が第5十刃ノイトラ様の従属官になんてなっているんだろう。彼の従属官はテスラ様一人だったはずなのに。私はただの紅茶準備係りだったはずなのに!

藍染様の命令で十刃の皆様に紅茶を入れた日、会議が終わって解散される皆さんを見送っていたら大きな影が私を覆った。恐る恐る見上げれば、そこには第5十刃のノイトラ様がニヤリと笑いながら立っていた。それだけで怖くて死ぬかと思った。そしてそのままノイトラ様に腕を掴まれてあっという間に彼に与えられた宮に連れてこられた。

従属官になった私の仕事はもっぱらお茶の用意。ノイトラ様やテスラ様とちがって、私の戦闘力はそこまでだ。コロニーの制圧や仲間探し、ノイトラ様の気分で戦闘に行くときに私はただ後ろをついて歩くだけ。本当なんで私いるんだろう。
そして今はノイトラ様へ紅茶を運んできたら、そのまま腕を掴まれてノイトラ様の隣へ座り込むことになった。まだノイトラ様は私の腕を離してくれない。


「菘」
『は、はぃ……』
「んだよ、お前まだ俺が怖ぇのかよ」


細い目を更に細めたノイトラ様が腕を掴んでいない方の手は私の顎を掴んで上を向けた。
しっかりと目があってしまって、自分の体温が一気に下がるのがわかった。
ノイトラ様が怖いかなんて勿論その通りなんだけど肯定も否定も怒られそうで何も言えない。やばい。これはそろそろ死ぬかも。

顎から、そのまま頬へ、そして最後には私の片目を覆う仮面の名残へノイトラ様の手は動く。ノイトラ様とは反対の目に残る私の仮面。
中級大虚 アジューカス になって間もない私の仮面はまだまだ主張が激しい。


「お前最近他の中級大虚喰ったか?」
『えっ、あぁそういや最近食べてないかもですね…』
「間違っても 最下級大虚 ギリアン になんて落ちんじゃねぇぞ」
『はい……気を付けます…』


なんだろう心配でもされてるのかな。弱い従属官なんて確かにノイトラ様には似合わないし、いやそうなると既に私の存在おかしくない?
これ以上雑魚に磨きがかかったらきっと捨てられるかするんだろうな。雑魚すぎて逆に殺されないかもしれない。あれ、そっちの方が私にとってはありがたいのでは……?


「考え事とは余裕じゃねぇか、菘」


そうやって現実逃避していた私は、首もとに寄ったノイトラ様が私の首に歯をたてたことにより一気に引き戻された。
痛い!何!?喰われる!?私をこれ以上進化できないよう食べるつもりなのノイトラ様!?
血が出ているであろうその首もとからノイトラ様は離れず、あろうことか舐めた。ひええ、ぞくってする!


『あ、あのノイトラ様やめっ』
「うるせぇ俺に命令するな」


違うんです、命令じゃなくてお願いなんです。懇願してるんです。なんて言えるわけもなく。ああ、なんかもうこのままいっそ食べきってくださったら私の気苦労は終わるのに。でもノイトラ様が私の希望通りの動きをしたことなんて一度もないから、きっと私の生活はまだ暫くこのままなんだろうなぁ。ちょっと涙が出た。


(20170317)




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