短編 | ナノ

スイッチガール、どうぞお手を

「なんで俺やねん!リサ行けばええやん!お前いっつもセーラー服着とるやん!」
「阿呆、あそこブレザーやろ」
「つーか別に接触すんのに学校まで行かんでええやん」
「話し合いで決まったことやろ!」


黒崎一護を仮面の軍勢に引き入れるため、誰かが学校に転校生として紛れ接触する、という作戦に落ち着いたのはいい。しかし適任が少なすぎた。ハッチやひよ里、羅武にローズは高校生にはなかなか見えない。拳西と白はこうした説明には不向きだ。そうなると残りは真子、リサ、そして菘となる。


『リサ〜着てみたよ』
「なんや似合てるやん菘」
「は!?なんで菘制服きてんねや!?」


騒ぐ真子とリサの元に現れたのは、空座高校のグレーの制服に身を包んだ菘だった。現世に降りてから百余年、随分こちらの服装にも慣れてきたが制服は初めてだ。
スカート短くない?と首を傾げる菘にリサはむしろまだ長い!と声をあげる。それに対して頼むからもっとスカート長くしてくれ!と真子が懇願した。


『あ、もう一人って結局どっちになったの?』
「もう一人って……え、引き込み菘行くんか?」
『うん。私とリサか真子が行くんでしょ?念のため二人一組で』


聞いてへんで!っと真子はリサを振り返る。言ってへんからな、とリサはしれっと答える。

そんな二人には気付かず、菘は嬉しそうにくるくる回り制服を翻す。そんな菘をチラチラと見て、真子は小さく舌打ちをした。髪で隠れている耳が赤いのはリサにも想像がついている。真子にとって菘はただの仲間ではなく、異性として気になる存在だったのだ。
勿論それを知った上でリサは引き込み担当に菘を勝手に決めたのだ。菘が一人で行くのを真子は許さないだろうし、きっとそのお陰で自分はその役を務めなくて済むだろうと。


『あ、でも予定が合わないなら私だけでも大丈夫だよ。私もこれぐらいの任務だったら一人でも平気だから!』
「あかん……逆に心配になるわそれ……完全にフラグやん」


頭を抱える真子と、おー頼りになるわとうまく菘を乗せるリサ。
仮面の軍勢の一人である菘は戦闘面では頼りになるが、普段はどこか天然でほっとけない。頑張り屋で一生懸命なのはいいが、天然が炸裂すると全て空回りするのはもう随分前から知っていた。

「ええのん?菘一人に行かせて」と言いたげにリサが視線をこちらに寄越す。深いため息が出た。


『リサからの作戦もちゃんと覚えたんだから!えっと……最初にまず押し倒す!』
「せやで、よお覚えとるな菘」
「はぁ!?リサ何教えたんやお前は!?」
「男落としにいくんや、常套手段やろ」


なんなら真子で練習するか菘、なんて恐ろしいことをいい始めたリサを真子は大慌てで止めた。菘のことだ、本気にしかねない。

制服を着たのが余程嬉しいのか菘は「白とひよ里にも見せてくる!」と倉庫の中をパタパタ走っていった。それにあわせてスカートもふわふわ揺れ、真子からすれば気が気ではなかった。頼むからスカートは膝丈にしてくれ。


「あんな菘ほっといて自分はアジトで一護待っててええんか?」
「誰のせいやねん、誰の!」
「ほらあんたの制服。説得気張りや」


ぽいっと渡された男子制服。最初からお前やる気ないし俺って決まってんねやんけ、話し合いなんやったんや。とぶつぶつ文句を言う真子を無視して、リサはいつもの愛読書を始める。そのうち気が乗ったら女子高生特集でも真子に貸してやるか、と思いながら。




結局一護勧誘に行くのは菘と真子で、張り切る菘とまだ眠そうな真子は並んで空座第一高等学校へ向かう。
菘は鼻歌を歌いながらと随分機嫌が良かった。


「なんや菘えらいご機嫌やん」
『勿論!だって仲間が増えるなんて百年ぶりだもの』
「まぁせやけど」
『一護くんどんな子かなぁ、仲良くなれるといいなぁ』


相変わらず暢気や、という呆れと同時に別にお前は仲良うならんでええ、という嫉妬心が湧いたのは口には出さないでおいた。


「菘!フラフラすんな!ほら手!」
『お?手繋いでくの?なんか兄妹みたーい! 』
「お前ほっといたらいつまでたっても学校つかへんねん!はよ行くで!」

(20170317)




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