短編 | ナノ

いとしいだけの共犯者

「なんやお前、新しい十二番隊の隊長知り合いなんか」
『うん、私元々監理隊だからね』
「すっかりうちに馴染んどるから隠密機動やったん忘れてたわ」


浦原喜助が新しく十二番隊長に就任した。副隊長のひよ里とは何やら一悶着合ったようだが、五番隊三席の菘は随分満足そうに笑っていた。


『浦原部隊長とひよ里絶対ああなると思ってた』
「誰が来ても多分ひよ里は気に入らん!って騒いでたで」


前隊長、曳舟はひよ里にとって母のような存在だった。突然の隊長変更ということだけでもひよ里にとっては気に入らない事だったのにやって来たのは随分とゆるい男だ。ひよ里が文句を言ってもへらりと笑う。


『浦原部隊長あれでいて気にしすぎなとこあるから、どうやったら仲良くなれるかとか考えちゃうんだよ。きっとなんだかんだうまくいくねあれは』
「隊長が部下の顔色伺ってたらあかんやろ」
『そういうことじゃなくて、結局あの人自分のペースに乗せるのがうまいんだ』


私も最初はペース狂わされまくりだった、と菘は隠密機動時代を懐かしみふふ、と笑う。菘が五番隊来てから随分立つが、そう言えば隠密機動時代の話を聞いたことはあまりなかった。
部隊が部隊だ。あまり深く話せるものでもないのはわかっていたが、その古巣は菘にとってはなかなか思い出深く居心地が良かったのだと真子は菘の声を聞きながら理解した。


「……菘ちゃーん、あんまり新しい十二番隊長さんのことばっか言ってたら妬くでー」
『何言ってるの』
「うるさいわ、今のお前の隊長誰やねん」
『平子真子隊長ですよ』
「せや」


トン、と菘の額を指でつく。顔はいかにも不機嫌です、と言いたげに眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げる真子を見て菘はクスクス笑った。
それに真子は更に機嫌を悪くしたのか頬杖をついてそっぽを向いた。


『ごめんってば。ほら、とっておきのお饅頭分けてあげるから機嫌なおしてよ』
「なんやねん俺はガキか」
『いらない?』
「いるわ。あーもうこのまま休憩や」


ろくに進んでもいない書類を机の端に寄せ、菘に茶を淹れるよう頼むとぐっと伸びをした。ここに副隊長の藍染がいれば、小言をあびただろうが幸運なことに彼は今副隊長会議に行っている。

真子はお茶を入れ終わった菘の腰を引き寄せ、自分の足の間に座らせると彼女の頭の上に顎をのせる。すっぽりと真子に覆われた菘は、振り返ろうと動くも「じっとしとき」と言われたので大人しくちょこんと座った。


「……こういうの俺以外にさせんなや」
『こんなことするの真子だけだよ』
「拳西も羅武もローズもあかんで」
『拳西が一番心配ないよね、するわけないよね』
「喜助もあかんで」
『だーかーら、大丈夫だって。さみしがり屋の隊長さんは君だけだよ』


菘は少し上を向くと、彼の自慢の髪に手を伸ばし撫でる。引っ掛かることなく指が通る金髪。女の子より髪サラサラだな、と菘は目を細めた。
真子の顔が頭の上から肩口に移動し、菘の首もとをその髪がかすめ、少しくすぐったくて身をよじる。しかししっかり真子の腕につかまっているためあまり意味はなかった。


『真子、藍染副隊長が帰ってきたら仕事してって怒られちゃうよ』
「ええねん」
『私は良くないんだけど』
「お前もええねん。隊長命令や」


いつも彼はどうでもいい内容のときだけ隊長命令を使う。それに口元を緩ませながら、菘は後ろにいる真子にもたれ掛かった。回る腕の少し強くなる。少しだけ苦しい気もしたが、なんとなくその強さが心地よかった。

(20170313)




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