短編 | ナノ

「好きなんだけど」

そんなことを急に言い始めたのは佐久早聖臣だ。彼は全国三本指に入るスパイカーで、高校バレー界ではとてつもなく有名な関東のサクサである。私はそんな彼が所属する井闥山高校男子バレー部のマネージャーで同級生。

……?落ち着いて立場を説明している場合ではない。備品を片付ける際、誰かさんのためにもと一生懸命ひとつひとつを消毒していた時、気付くと隣に立っていた佐久早にビクッとした。こんなに背が高いのになんでか気配は薄いんだよなぁ。そしてびっくりした私に、先程の言葉を言い放った。黒曜石の瞳はじっと私を見つめて、静かにでもきちんと聞き取れる声でそう告げた佐久早はいつも通りに静謐な雰囲気だ。

好きだ、と言われたけれど、あまりにもいつも通りで混乱する。告白されたと勘違いしたけれど、もしかして違うのでは……?と思うほどに。もしかして私が使っている消毒液のメーカーの話だったりするのかもしれない。いやきっとそうだ、それ以外になくない?良かった、慌てて返事とかしなくて……!
一通り脳内会議を終えた。よし、言うこと決めるぞ!「佐久早も?ここの消毒液よく駅前の薬局で安売りしてるけど効果もなかなかいいよね」よし、台本できた、いくぞ。


「さく、」
「お前のこと、好きなんだけど」


あーーーー!お客様!お待ちくださいお客様!
やっぱり私のことだったーー!!勘違いかと思ったら勘違いじゃなかったーー!!いや、ますますわかんなくなっちゃった……!


「……それは、その、……恋愛的な意味で、ですか」
「……なんで敬語?」
「いやっ、だって……突然すぎて、今、びっくりしてて」

×
top





- ナノ -