短編 | ナノ

次に会うのは月の下星の下

書類を各隊に渡し終えて自分の隊舎に帰ろうとしていたとき、ドタドタと死神らしくない音を立ててこちらに何かが走ってきた。何か、なんて言ったけれど姿が見えなくてもこの霊圧は慣れ親しみすぎていて誰かなんてすぐにわかる。


『ひよ里、どうしたのそんなに慌てて』
「菘!」
『わっ、あぶなっ』


廊下の角を勢いよく曲がって私へと飛び付いてきたのは、私の所属する十二番隊の副隊長のひよ里だった。ひよ里はそのまま私の後ろに隠れるように回る、そしてもうひとつドタバタと足音がこちらへ近付いていた。こちらも慣れ親しんだ霊圧だ。


『真子まで、隊長副隊長がそんなに走り回らないの、示しつかないよ』
「ひよ里!菘を盾にするんは卑怯やろ!いつもいつも!」
「喧しいわハゲ!弱点押さえるのは定石や!」
『弱点って……』


私を挟んでいつものように言い合いを始める二人。何故かいつもこうなる。私が近くにいなかったらひよ里は真子の前から逃走したりしないらしいけれど、近くに私の霊圧を感じると直ぐ巻き込んでくる。羅武曰く「甘えてる」だそうだけど、真子をからかう材料にされてるだけだよなぁ。
というか一応私の上官なんだからひよ里ももうちょっと大人になってほしいところ。そんなこと言ったら私の顔にも草履が飛んできそうで言えないけどね。


『ひよ里、隊舎に戻ろう。真子も、きっと藍染副隊長が怒ってるよ』
「菘お前誰の味方やねん……」
「ウチに決まってるやろ!」
『私はお仕事頑張る人の味方です』


二人のおでこに平等にでこぴんをかまし、私は十二番隊舎の方へと歩を進める。後ろで怒る二人は放っておこう。浦原隊長はあまり怒ったりする人ではないけれど、急ぐに越したことはない。仕事はまだまだ残ってるんだから。


「待ちぃや菘!」
『何、二人ともお仕事あるでしょ。ほらひよ里いい子だから帰るよ』
「ガキ扱いすんな!ウチ上官やぞ!?副隊長やぞ!?」
『真子も、いい子になってね』
「真子くんは最初っからええ子ですー」


ひよ里と真子は見ていられないような変顔をお互いに向けており、辺りに他の隊士がいなくて良かったと息をつく。隊長各のこんな顔をみたら、尊敬や憧憬も吹き飛んでしまうだろう。


「菘!戻るで!」
『はいはい、浦原隊長がお饅頭用意してたよ』
「なんやねんそれ!あいつ仕事せぇや!どついてきたる!」
『いやそれひよ里が言うの?……ってああ、何も瞬歩で帰らなくても……』


浦原隊長も好意でおやつ用意しただけなのに、と自分の隊の隊長副隊長の関係を嘆く。これでも随分仲が良くなったほうだ。でも出来れば、もっと穏やかに仲の良い二人になってもらいたい。ひよ里があの調子では無理かな。


『じゃあ、私も戻るから真子もなるべく早く戻ってあげなよ』
「なんや、せっかく二人っきりやのに」
『何いってんの。ふざけてないで仕事して』
「ほんまお前は真面目やのぉ」


私の頭をぽんぽん撫でながら、呆れたように眉をしかめた。
私が真面目なんじゃなくて、真子達が不真面目なんだよ、と言えばやかましいわ、と頬っぺたをつねられた。痛くはないけれど、なんだかうざかったのでその手は叩き落とした。
大袈裟に痛がる真子を無視して私も十二番隊舎…技術開発局への道へと足を向ける。さすがに瞬歩では帰らないけれど、ちょっと屋根とかの上を通って近道はして帰った方が良さそうだ。遅かったやんけ!とひよ里が怒る姿がもう目に見えている。


『じゃあね、五番隊隊長さん』
「次は夜とかにもうちょっとゆっくり二人っきりになろな、技術開発局の副室長さん」
『闇討ち?』
「アホか、口説いてんねん」


(20170406)







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