短編 | ナノ

起きて覚めない夢

昔から霊感ってやつは強かった。道路の片隅、学校のあちこち、たくさんの幽霊が見えていたし、言葉もかわせた。私にとってそれは当たり前の光景で、怖いと思うこともなかった。
胸の鎖が辛そうだとか、表情が寂しそうだとか見えて話せるだけの私にはそれらをどうすることも出来なくて、少し悔しかった。

そしてその日は、違うものが見えた。

白い 化け物。

あんなの今まで見たことのない。今日この町に引っ越してきたのにもう引っ越したい。さっきからこの町幽霊多いなって思ってたのに。

何、あれは。凄く嫌な空気がする。ガタガタと体が勝手に震えた。私の足は竦んでいて、地面に縫い付けられたようなそんな気持ちだった。そして、最悪なことにそんな状態で、白い化け物と目が、あった。


《なんだ、ウマソウなのがいるじゃねえか》


頭の中に直接響いたようなその声に、息が止まる。一瞬にしてその化け物は私の目の前に移動していて、私の何倍もある大きな体で作った影が私を覆った。なんだ、これ。伸びてくる手を避けることも、逃げるために足を動かすことも出来ない。出来るのはただ目を見開いて、目の前の化け物を見るぐらい。

化け物は私を掴みあげて、大きな口をあける。ああ、喰われるんだ、殺されるんだ。
そう思ったとき、化け物の腕がちぎれた。腕から解放されたが、持ち上げられていたためなかなかの高さがある。体が下に落ちていく中、これやっぱり死ぬんじゃないかと呑気に思った。しかし浮遊感は長く続かなくて、誰かに抱き止められた感覚に包まれる。
恐る恐る目を開けると、黒い着物が見えた。誰、人間?


「おっと、あぶねえな」
『……だれ、』
「死神代行。なんだあんた、俺が見えるのか」


見上げれば、オレンジ色の綺麗な髪が見えた。刀を持った彼は、私を地面に下ろすと白い化け物に切りかかる。顔のような仮面から真っ二つに切り裂かれた化け物は消えて、そこで私は意識を失った。





気付けば家で寝ていた。私の家、私の部屋。なんだ、夢だったのかそうか。引っ越ししたてのストレスかな。それにしても嫌な夢だった、やけにリアルだし。……あれ、寝てた割にはパジャマ着てないな。疲れてそのまま寝たのかな。

ってのんびりしてる場合じゃない!今日から学校!転校初日に遅刻はまずい!

真新しい制服に着替えて、慌てて家を出た。昨日知り合った家の前の電柱のところにいる女の子の幽霊に挨拶は忘れずに。



「転校生紹介するよーほら入っといで」
『はい、えっと……小野瀬菘で……』


緊張しながら教室を見渡せば、目立つオレンジ色が見えた。あれ、あれって夢の中で見た……
ぱちり、と目が会えばその人は目をカッと見開いた。「お前昨日のっ!」と声をあげられ、「なんだ知り合いか?」と先生に訪ねられた。


『ひ、ひえ、しにがみ……』
「は?なんだ黒崎、死神なんて言われるような怖がらせ方したのかー?」
「しっしてねぇよ!」


私の転校初日は、恐怖がフラッシュバックして泣くという最悪なものから始まった。教壇でいきなり泣き始めた私は相当やばいと思う。


「記憶置換したはずなのに…あ、電池切れてねこれ」
『ち、痴漢……?』
「ちげぇよ!!!!!」

(20170320)




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