novel


▼ 重箱の隅に蠢く夜

「はるか先生、来て下さい!すみません、ルートも抜かれてしまってっ」



現在時刻、午前2時。ひっきりなしに来ていた患者の波がようやく収まり、最後の患者の背を見送った直後のことだった。朝から働き通しの体は疲れ切って棒のようであったものの、電話の後ろで響いた破壊音や怒声が、彼女と僕の頭を見事に起こしてくれた。人体を殴った時の音によく似た鈍い音が聞こえてくるあたり、事態は深刻だ。



「今行きます」



短く答えを返し、彼女はエレベーターへ駆ける。だめだ、ずいぶん待たないと降りてきそうにない。階段を8階分駆け上がるのと、エレベーターをまっているのと、どちらが早いか。彼女は迷わず走ることを選択した。非常階段を駆け上がる。病院内は非常灯を残して消灯されており、足元も見えないくらいだというのに、階段を照らす照明は昼間と変わらず煌々と輝いている。見やすいのはいいことだが、僕らには少々明るすぎるようにも感じられる。僕が無駄なことを考えている間にも、彼女は足を止めず、息を切らしてナースコールの出所、8階まで上り詰めた。真っ暗な廊下の先で、なにやら暴れている人影が見えた。



「やめてください、」

「なんで俺はここにいるんだ!家に帰る!俺は帰る!こんなところにいたら殺される!」

「今日はもう遅いから明日にしましょう」

「うるせえ!今帰るっていってんだろうが、カカアはどこだ!」



看護師の腹部めがけて突き出された拳を見た瞬間、僕の掌に重い衝撃が伝わった。彼女の手が、パンチをたやすく止めていたのだ。単純な暴力なら筋が読みやすい分、処理には困らない。本当に恐ろしいのは、本気で危害を加えようと冷静な判断のもとに襲い掛かってくる者だ。せん妄で暴れている患者であれば、そう簡単には抜かせない。

暴れていた患者は、はっと顔を上げる。目と目がかち合った瞬間に、彼女は表情筋を目いっぱいに緩めて微笑んだ。



「その通りですよ、鈴木さん。今日はもう遅い。疲れたでしょう、ゆっくり休んでください」

「はるか先生…!」

「お前、医者か?女か?馬鹿野郎、殺す気か、ヤブ!」

「看護師さん、内用液ください。必要時、入れますから。…鈴木さん、一杯やってから帰りましょうよ」



彼女は怒声を意に介さず、患者を見つめたまま、看護師に指示を出す。薬剤を準備しようとした彼女の腕には、無数のひっかき傷がついていた。きっと彼女も気づいたはずだ。看護師が薬を持って戻ってくる。彼女は、白衣のポケットから350mlのペットボトルを取り出して、蓋に中身を注いで見せた。



「一緒に飲みましょう」

「そんな気になれるか!」

「看護師さん、飲ませて。せーの」



いうが否や、彼女は患者の利き手を押さえた。一見細く見える腕ではあるが、筋肉は体格なりについている。看護師が患者の口に液体を含ませたのを確認してから、見せつけるように、自分も蓋を傾け、中身をごくりと飲み下した。



「やめろ!やめろ!!」

「さて、僕に付き合ってくれてありがとうございました。で、鈴木さんは帰ったら何をしたいと思われますか?」



僕らは知っていた。彼は、2週間のうち12回、救急搬送をされつづけた患者であることを。その主訴は多岐にわたり、要領を得ない。一般的には不定愁訴と呼ばれる類のものだ。不定愁訴、とひとくくりにすると、医者が面倒くさがっているのだと感じる者もいるだろう。辛さを軽んじられているようだという患者もあるだろう。しかし、不定愁訴がどこから生まれているのか、根本を辿ってゆくと、決して軽くはない背景があらわになることもある。

この患者には、背景にアルコール中毒があった。彼がアルコールに手を出したのは、愛する妻が亡くなり、独りになった苦痛に耐えきれなくなったからだ。定年になり、仕事がなくなり、アルコールを飲むこと以外に楽しみがなくなった彼の生活は破綻し、生活保護の需給を要し、やがてアルコール飲酒後の動悸などを主訴に、救急を要請し、多くの病院へ搬送されることとなった。どの病院も、暴れる彼を強制退院させるほかなくなり、最後に回ってきたのが、この病院だった。彼が暴れることを、僕らは知っていた。救急外来のカルテをひとつひとつ確認して学ぶのは、僕らの重要な仕事のひとつだ。



暴力をふるうことは、悪いこと。

救急車という公的資源を自分勝手に呼ぶことも、決して良いことではない。それに対応している間に、本当に命を脅かす疾患に襲われている人の救急搬送が遅れる懸念があるからだ。

それでも、僕らは医者だ。医者としてここにいる限り、一般的な常識だけにとらわれているわけにはいかない。できる限りの手を打たねばならない。

もちろん、通用しない相手はいる。

御退場願わなければならないほどに、病院の中を壊して荒らして、多くの医療者、それだけでなく他の患者にまで危害を加える者もいるから、場合によってはそんな悠長なことは言っていられない。この患者は幸いこのまま落ち着きそうではあるものの、落ち着かない場合は僕だけじゃなくて、もっと何人も人を集めて押さえつけなければならないこともある。

こんな風に、僕が止められたのは、ただ運が良かっただけで、決して、これが当然の対応というわけではない。ここは病院というひとつの社会であり、入院している人々や職員に対して明らかな危害を加えるような状態の患者を庇護し続けられるだけの設備は整っていない。ある種の精神科病棟ならば対応できるだろうが、拘束という手段に対して世間が抱く嫌悪感は非常に強い。きっと、今彼女が選択した鎮静薬の内服だって、見方によっては非難されるべきものなのだ。



漸くうとうとと眠り出した患者を見て、看護師は安堵した顔を浮かべた。この間、看護師はこの場を離れて、他の多くの患者のナースコールにこたえるべく飛び回っていた。自分の腕の傷も、殴られたのだろう痛みも横に置いて、だ。医療者は決して足りていない。一人の患者を24時間見守っていることは、困難だ。ナースコールが同時に響き渡れば対応は順番待ちになる。24時間見守れない中で、患者の身の安全を最大限守るために必要なのが、拘束だった。ベッドから起き上がった時にナースコールが自動で鳴るようにすれば、転倒するまえに気付く確率が上がるし、ショックバイタルであれば、ベッド上で安静に横たわっていてもらうことで、少なくとも起き上がった時の急激な血圧低下に伴う気絶や転倒を防ぐことができる。勿論、家族の見守りがあれば拘束は不要だろうが、現代社会ではそうもいかない。

何も、体を縛り付けることだけが拘束と呼ばれているわけではないのだ。



「お疲れ様です、看護師さん」

「はるか先生…今はどっちですか」

「隊長の言葉を借りるなら、こはるです。…傷、処置、私がやりますよ」

「先生は当直でしょう、忙しいんだから休んできてください」

「忙しい中、たたかれてもひっかかれても、患者さんを守ってくれたから。私が、やります。そしたら休みます」

「…さっき、ちゃんと洗いました」



看護師は、おとなしく腕を差し出した。軟膏を塗って保護するだけの処置だが、しないよりはましだろう。…それにしても、なんだか様子がおかしい。俯いた看護師の手は、冷たく湿っていた。よく見ると、唇は紫色に変色していた。看護師に話しかけるよりも先に、僕の体は彼女を抱き上げ、処置室のストレッチャーに寝かせていた。寝台の上で、膝を曲げ、それでも看護師は何も言わずにいた。



「腹部は」

「大丈夫です」

「大丈夫じゃないね。…私が来る前に、あなた、何回殴られたの」

「2回くらい…うう、気持ち悪い、」



青ざめてゆく顔色を見て、僕の体が一瞬硬直したのは、彼女の不安の為だった。変わろうか、と声をかけるも、彼女はこちらの声を、やはり聞き入れようとはしなかった。そのかわり、血圧をはかりながら、胸ポケットからピッチを取り出し、目にもとまらぬ速さで番号を打ち込んだ。今日、当直に一緒に入っている上級医のピッチの番号だった。彼の名は仁兎、呼吸器内科の医師だ。僕たちに篤い指導を行ってくれた、信頼できる上司でもある。上司は、この深夜だというのに寝ていなかったのか、僅か2コールで呼び出し音を断ち切ってくれた。



<どうしたのー、蓮城先生>

<緊急です。8階病棟に来てください。ショックバイタルです>

<今行く>



扉を勢いよくぶち開けたような音に、通話終了音が重なった。彼女はピッチを胸ポケットに戻そうとするが、それを取り落す。ピッチは床に跳ねる。それよりも、収縮期血圧80台、脈拍120台というショック状態の看護師を救うことの方が、重要だった。気付けば処置室の前に、若手の看護師が立っていた。



「大きな音がして」

「病棟、ごめんなさい、ちょっと頑張っていてください。管理の看護師さんに連絡をお願いします」

「…わかりました!」



点滴のラインを繋げる暇さえもどかしい。落ち着け、と彼女は頭の中で繰り返すけれど、気持ちが急いているのは否めない。落ち着いて、はるか。大丈夫、呼吸数はまだ保たれている。点滴をいれれば、時間は稼げる。仁兎先生も来るんだから、落ち着いて。うるさいほどにどくどくと鼓動する心臓の音が、僕から彼女へ伝えたい言葉をすべて消していくようだったけれど、完全に集中状態に切り替わった彼女は、22Gの点滴針を看護師の腕に差し入れ、点滴を確保して見せた。細胞外液の急速補液だ。



「看護師さん、心臓悪いとか言われてないですか」

「ない‥です…」

「今までした大きな病気は」

「特にないです…お腹痛い、先生、ごめんなさい、私仕事しなきゃいけないのに!」

「今はこっちのほうがよほど大事だよ、看護師さん!」



「何があったの、はるか先生。ルートありがとうね。…うん、プロブレムは?」



そこに、息を切らせて駆けつけたのは、仁兎医師だった。精悍な顔を歪めることもなく、普段通り穏やかな声で語り掛ける彼が、彼女の過緊張を解いてゆく。



「患者さんが暴れているとコールあり、駆け付けました。私が来る前に、看護師さんは腹部を2回殴られていたそうです。患者さんを寝かせたあとに、彼女が冷汗著明であることに気付いて、バイタルがショックで、何かがおかしいです、先生」

「大丈夫だよ、落ち着いて。今、循環の異常を改善しようとしているんだよね。5分後にまた再検しよう。状態によっては2ルート…うん、準備だけはしておこうか。看護師さんには意識がちゃんとある。ねえ、水谷さん。水谷さん、妊娠してる可能性ってある?造影CT撮りたいな」

「にと、先生。ないです。してください。腎機能も、1カ月前の、検査で、大丈夫でした」

「うん、わかった。採血はした?」

「すみません、してなくて、」



くしゃりと歪んだ彼女の表情を目ざとく見つけた先生は、鼓舞するように声をかけた。



「大丈夫、大丈夫。今から取ろう。鼠径から全部取っちゃおうね。はるか先生、画像検査室に連絡してもらっていい?救急外来の看護師さんには連絡したから、もうすぐ来ると思うんだけど」

「はい、連絡します。オーダーも入れてきます」

「ありがとう、お願いしまーす。あ、ピッチ落ちてたよ、はい」

「!ありがとうございます…」

「大丈夫だから、はるか先生。ゆっくり息吸って、吐いて。大丈夫、助かるよ。助けるんだから」



仁兎医師の声に、大きくうなずいた彼女の指先は、もう震えてはいなかった。カルテを開き、水谷看護師のカルテを探し出し、オーダーを素早く入れてゆく。ピッチは肩と耳で挟み、画像検査への連絡も同時に済ませてしまった。



「事務さんですか、研修医の蓮城です。水谷看護師のカルテ上げて下さい。できるだけ早く…え?いま、8階病棟にいます。緊急で。リストバンドは降りた時に取りに行きます。え?CT室においてくれますか?ありがとうございます、助かります!」



事務の後ろでも、電話が鳴り響いていた。此処は不夜城、眠らない要塞だ。患者の命を、守り抜くための。



「ラベル持ってきました!造影の同意書も持ってきました」

「ありがとう、先生。分注お願いしていい?」

「はい。CTは5分後に降りてきてほしいとのことでした」

「はーい。じゃあ今のうちに同意書、書いてもらおうか。水谷さん、サイン、かけそう?」

「大丈夫…です、説明もいりません」

「そっか、水谷さんは放射線科ではたらいていたことがあったから…」



何事もないように話している仁兎医師の片手は、止血、もう片手では、手首を握り、脈拍をはかっていた。それを気取らせないように、何気ない会話を持ち出し、患者の意識レベルが低下していないことまで、一気に確認していた。幸い血圧は何とか収縮期血圧3桁台まで持ち直したが、腹痛は変わらず、水谷看護師は辛そうに閉眼していた。



「さ、行こう。エレベーター止めておいてくれる?」

「はい、呼びます」

「水谷さん、動くからねー」



仁兎医師と、彼女は、ストレッチャーをエレベーターに押し込み、画像検査の部屋へと向かう。彼女の容体は、特別悪化してはいないようだった。



「はるか先生は、何を疑ってる?」

「気付かれていなかった卵巣嚢腫や出血性腎嚢胞などの破裂…は、除外したいです。年齢から積極的には疑いませんが、腹部大動脈瘤の切迫破裂も…」

「そう。…じゃあ、もし、本当にそれがあったとしたら、どうしようか。何をすれば助けられるかな。…また考えよう」

「はい」



画像検査室の前では、事務員が一人、ファイルを持って立っていた。僕を見ると、駆け寄ってきて、リストバンドを持たせてくれた。



「軽症の患者さんにはすこし待っていてもらえるように説明しています。救急外来の方は、今、ICUに偶然いらした神宮寺医師が対応してくれていますから、大丈夫です」

「神宮寺先生、倒れちゃいそうで心配だね…うん、頑張ろう!」

「造影入りまーす!」



放射線技師が、てきぱきと検査の準備を進めてゆく中で、彼女と仁兎医師は、患者の傍から離れたりしなかった。いつバイタルが崩れるか、解らない。けれど、撮影直前に、仁兎医師は、僕をガラス張りの部屋の方へ押し出した。自分は、放射線防護服を掴んでいる。



「僕がちゃんと見てるから、はるか先生は体を守りなさい。女の子の体に伴う未来を選ぶ権利を守ってあげなくちゃ」

「え、あ」

「ね。ほら、もう撮影始まるよ」



厚い扉が、仁兎医師と僕との間に滑り、二つの部屋が、一時的に隔絶される。大丈夫だよ、と励ます声が聞こえた。



「行きます」



まず、小さなディスプレイに映し出された単純CT像の時点で、腹腔内に中等量の腹水の貯留が見えた。やはり、何かある、と直感するも、確定診断には至らない。

続いて、血管内が真っ白に塗りつぶされた造影のCT像が映し出される。腹部の一部で、血管外に滲むような白色が、はるかの網膜に焼きついた。



「終了します」

「せんせい、仁兎先生!」

「お疲れさまでした、水谷さん。出血してた?」



何も言えずにうなずく彼女に、少しだけ目を細めた仁兎先生は、やはり何も言わずに、先ほどまで僕の体を守ってくれていた部屋の中へと飛び込んでいく。パソコンの画面にかじりつき、画像をぺらぺらとめくる表情は、真剣そのものだ。少し経って、戻ってきた先生は、ストレッチャーに手をかけ、自分のピッチを取り出した。



「もしもし。看護長、ICU上げたいです。主治医は今日のうちは僕で。朝になったら血管外科かな、どこだろう。また考えます。上がって良くなったら教えて…え?上がっていい?すごい、早い。ありがとうございます!」



あがっていいって、と、仁兎医師は僕に向かってうなずいた。エレベーターを止めるために駆けると、事務員が唇に指先を当て、彼女より先にボタンを押して見せた。



「止めてますから、一緒に来てください」

「ありがとうございます!」



暗い救命センターの中で、看護師たちが手際よく水谷看護師の入院準備を整えてゆく。



「ごめんなさい…皆さん…忙しい時に…病棟も…」

「何とかやってるよ、大丈夫。それより自分を心配して」

「…はい」

「はるか先生は一緒にオーダー組もう。あ、それとも外来に戻ってもらった方が良いかな」



あたりを見回した仁兎医師の前を、ちょうど通り過ぎようとした神宮寺医師が首を振った。



「もう片付いてるんで、降りても誰もいませんよ」

「よし、じゃあいいね。はるか先生…あれ。はるか先生」

「……ごめんなさい、すみません、流れてしまいました。不潔なので、大丈夫です、すぐに落ち着きます」



僕の瞳からは、ぼろぼろと涙がこぼれていた。それを見た仁兎医師は、ティッシュ箱を彼女に差し出した。



「腹部の出血だったね。…間に合ってたら、って思った?」



彼女は何度もうなずいた。間に合わなかったことへの悔恨と、水谷看護師の異変に気付くのが遅くなったことへの罪悪感が、今の彼女を苛む全てだった。そんなことを言ってもできる限り早く駆け付けたし、できることは、すべてやったのだ。悔やんでも、たとえ時間が巻き戻ったとしても、あれ以上のことはできなかったはずだ。それでも、彼女は耐えられないと泣くのだ。その弱さを俯瞰しながら、それを理解できない僕自身を、僕もまたぼんやりと眺めているのだった。



「…これ、腹腔内に腫瘍かなにかが、多分もともとあったんだと思う。詳しくはまだわからないけれど…症状がなかったから、見つからなくて、今回偶然、腹部打撲によって損傷して、見えるようになったのかな。…酷なことを言うかもしれないけれど、今回はるか先生が守れていたとしても、いつかこうなっていたかもしれない。病院内だったから、すぐに対応できたという点は、評価できる。それに、はるか先生もABCDE,救急の原則にのっとってすぐに処置を始めてくれたわけだし、ね。やることはやった。今後のことを、今度は頑張ろう。その分、頑張っていこう」

「先生、怖く、ないですか?」



仁兎医師は、悪戯っ子のような顔をして、うなずいた。



「言い方は良くないんだけれど、重症患者さんは、自分がやることなすことで、なくなることもあるし、助けられることもある。それって、糸を上手く張るような細かいコントロールが必要で、まるで難しいゲームのようなんだ。勿論、ゲームオーバーになったらやり直しはきかない、一回きりのプレイ。全身全霊をかけて戦うんだ。…自分の行動の結果が、すぐにわかってしまうことが怖くないわけじゃないけれど、その人の命を引き戻してゆく感覚は、好きだから。水谷さんの命を救うために、一体何が必要かな?」

「出血が持続しているなら、止めたいです。血管内治療なら放射線科や血管外科、臓器摘出となるならば、その臓器に造詣の深い科で、摘出術など考慮される……でも、今私たちがやれることは、バイタル管理と疼痛コントロールだと思います」

「そうだよね、今すぐこれが何かは解らないけれど、何かを調べる前に、やれることがまだあるね。ようし、そこから詰めていこう!」



長い夜が明け、いつも通り午後も勤務を継続しようとした僕らは、神宮寺医師と仁兎医師の双璧に阻まれ、半休をとり十分休養する、という任務を与えられて病院を去ることになった。

僕らが抵抗するのを見て、二人は顔を見合わせ、うなずきあい、僕らの顔を見て、声を合わせて宣った。



「僕たちには患者さんを任せられない?」



そんなわけがない。

僕らを過酷な勤務から守り、先へと導く、彼ら若手医師の背中を見た僕らもまた、歳を重ねたら、同じ言葉を、きっと後輩にかけるだろう。


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