No.00 イタリア某所の山奥。 ボンゴレファミリーが所有しているアジトの一つである古城に、その青年は居た。 「・・・・・・あー・・・つっかれた・・・!」 黒い皮張りの椅子をぎしりと軋ませ、程よい弾力のある背もたれに深く深くもたれかかった青年は、目の前に高く積まれた、今しがた漸く片付け終わった書類の山を見上げ、濃い疲労の色を滲ませた。 ボンゴレファミリー。 ボンゴレとは世界中に点在するマフィアを調停し、その頂点に君臨しているといっても過言ではない巨大勢力で、血統、掟を重んじる、イタリアを拠点とした伝統ある古い組織だ。 結成当初は自警団として設立されたが、次第にコーサ・ノストラ・・・一般的にはマフィアと呼ばれる組織へと形を変えて、古くから地元の住民を守ってきた。 近年では、ボンゴレがイタリア国内で密かに暗躍し続けてきたためか、公にこそなりはしないがその力は表の世界にまで及び、イタリアに無くてはならない存在として、地元民だけでなく、国民にも少なからず好意的に受け入れられてきている。 イタリア政府にすら存在を黙秘される程の権力を有する・・・といえば、ボンゴレがいかに強大であるかは想像に難くないだろう。 そのボンゴレの頂点に君臨する当代ボス・ボンゴレ]世(デーチモ)を務めているのが、彼――沢田綱吉(さわだ つなよし)だ。 彼は、見た目こそ細身でいかにも優男といった生粋の日本人だが、遠い祖先が実は初代ボンゴレボスだったという、たったそれだけの理由でボンゴレ十代目の最終候補として祭り上げられた哀れな青年である。 彼が中学に入学して数ヶ月経ったある日、二足歩行をするスーツ姿の赤ん坊――世界最強のヒットマン、リボーンが家庭教師にやってきたのをきっかけに、綱吉の平和な日常は消え、望みもしない非日常へと引きずり込まれることとなった。 平凡を誰よりも望む、平凡以下の学力と運動神経の持ち主であった綱吉は、日々危険と隣り合わせな生活を送りながらも安全・安心・安穏な生活を夢見続けていたが、流れに流されるまま、付けたくもない知力や戦闘能力を身に付けさせられ、代わりに掛け替えの無い友人とも仲間ともいえる者達に出会った。 その仲間達と共に数々の事件(仲間が引き起こした物もある)に巻き込まれてきた綱吉は、いつしかボンゴレを継ぐ覚悟を決め、高校卒業後には本格的にボンゴレ]世を襲名、九年の時を経て立派なドンへと成長し、そして現在に至る。 綱吉は書類仕事で腱鞘炎を起こしかけた右腕を労るように擦り、普段の彼からは想像できないような・・・とても肝の据わった、どすの利いた目を書類に向けた。 書類の種類は様々で、敵対勢力の殲滅報告やボンゴレの管轄地区の治安や経済、住人の動向、はたまただれそれが結婚するだの、ファミリー内の何家庭で何人赤子が生まれただの、ピンからキリまで様々な内容がドン・ボンゴレの元へやってくる。 中でも圧倒的に多いのが“とある内容”の報告書で、それが長年綱吉の悩みの種なのだが・・・・・・ いつもは、胃を痛ませながらも「しょうがない」と言い聞かせてきた問題・・・だったのだが、積もり積もった綱吉の感情は、今回、とうとう爆発してしまったようで。 「ふっふふふ・・・今日という今日こそは・・・・・・絶対に、許すまじ」 常より低い声でそう吐き捨てて、懐からプライベート用の携帯電話を取出してしばし逡巡すると、ある番号へと電話を掛けた。 『Ciao, お久しぶりです、綱吉です。突然ですみませんけど、少しお願いしたいことがあるんです・・・いえ、実は――』 綱吉は流暢なイタリア語で相手と短いやりとりをし、用事を伝え通話を終えるなり、手近にあった不要な紙にメッセージを書きなぐった。 そして幾分かスッキリした表情を顔に浮かべ、流れるような動作で部屋の窓まで近づいていくと・・・ 綱吉は窓を開け放ち、地上が遥か下に見えるそこから、躊躇することなく飛び降りたのだった。 無人になった部屋には開け放たれた窓から風が吹き込み、綺麗に積まれていた書類の塔は見る影もなく崩れ去った。 大量の紙が宙に舞う中、先程まで綱吉が使っていた机の上には、彼の残した紙が――目立つようにと置かれた文鎮が、きちんとその役割を果たして――鎮座していた。 綱吉の残したメッセージ、それは、こう書かれていた。 『しばらく家出します 探さないでください 綱吉』 この置き手紙を見付け、ボンゴレ十代目の右腕である嵐の守護者が絶叫するまで、あと数時間―― ----- (2011/4/6) 始めてしまいました、復活×ラキドのクロスオーバー小説。 アリスゲームに行き詰まった結果の息抜きともいう← 果たして需要があるのかないのか …そしてちゃんと更新&完結できるか定かじゃありませんが、頑張ってみます^^ 書きたいところだけでも書き散らせたら良いな。 流間 ← |