01


 微睡みの中、声が聞こえた。
 それは聞いた筈のないものなのに、何故だか懐かしい感じがする。


『―――』


 また、呼ばれた。


『―――』


 また。
 必死に私を呼んでいる。
 けれども、その言葉は聞こえはしない。
 なのに、懐かしく感じる。
 変な感覚。訳が判らない。

 真っ暗な暗闇だけが広がり、誰かに呼ばれているという感覚だけ。

 …誰?
 私を呼んでるのは…。


『――アリス…』




「……アリス?」


 ふと、今まで聞こえなかった筈の声が聞こえた。



◇ ◇ ◇



「朝倉未亜っ!!」

「…へっ?」


 突然真上から聞こえた怒鳴り声に驚き、ハッと顔を上げた。
 目の前には顔を真っ赤にし、怒りを露わにしている先生の姿。


「…俺の授業で眠るとは良い度胸だな……朝倉未亜」

「……あ、川添先生」


 今は授業中。
 しかも、寝たらヤバい川添敦(カワゾエ アツシ)の数学の授業だった。
 どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。


「…えっと、せんせ――」
「朝倉、お前だけ特別課題な?」


 紡ごうとした言葉は遮られ、川添という教師は教卓の上に置いていた多量の紙の束を掴み、少女の机の上に叩きつけるようにして置いた。


「これ、明日までに提出厳守で」


 そう言う川添の顔は、とてもにこやかであった。






 朝倉未亜(アサクラ ミア)。16歳・女。 ごくごく普通の平凡な少女。
 背中まである、薄い茶色の髪の毛に鳶色の瞳。成績は中の上。

 しかし、そんな彼女が、これから大変な出来事に巻き込まれていくなど思いもしなかっただろう……。



 そう、

 本当のアリスを決めるアリスゲームに―――……。





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