添い寝

今、俺は幸せ満ち足りた感触と、どうしていいかわからない困惑と相反する二つの感情を同時に併せ持っている。

俺の腕の中にすっぽりとちひろが納まり、俺の右側に横たわっている。
しかも褥の上に。
こんなことってあるのか?
何をいっても否定する言葉しか発しなかったちひろが俺の真横にいる。
触れるどころか密着状態なのだ。
視線を落とせば三寸先には、ちひろの潤んだ瞳がそこにある。

こうなったのは、今から一時ほど前。
突然、ちひろが
「晋作さん、わたしね、晋作さんの小さかったころや、長州に居たときの話が聞きたい」
っといいだした。

昔の話なんて、ちひろが聞いたところでおもしろいことはあるまいに・・・・

ちょっと面倒くさいのも手伝って、いつものごとく冗談のように
「ちひろ、話すと長くなるからなー。添い寝をしながらだったら、話さないこともないぞ。それまで待つか?」と言ってみた。

きっと
「もういいです」とか
「なんで添い寝なんですか!」と捲くし立てるようないつもの口調で返事が戻ってくると想定していた。

すると、驚いたことに
「うん、わかった。じゃあー、あとで話してね」
というではないか・・・

お?どういう風の吹き回しか?
それとも「俺の女だ!」といい続けた効果なのか?
嬉しいには違いないが・・・
言い出した手前、俺はどうするんだ?
遊女の寝物語じゃないんだぞ!
しっかりしろ、俺!



◇◇◇◇



「晋作さん、それで?」

「あー、萩の菊屋横丁ってとこで育ったんだ。小五郎のうちもすぐ近くだったんだぜ」

「うん。」

「明倫館って藩校に通ってたんだが、つまらなくてなー。」

「うん。」

「それで、松下村塾へいったんだ」

「うん。」

「そこで、久坂たちと一緒に松蔭先生からいろいろ学んだんだ」

「うん。」

「久坂のことはこの前話しただろ?覚えているか?俺の親友だった・・・」

「うん。」

「ちひろ、聞いてるのか?お前が聞きたいと言ったから話してるんだぞ?」

「あ、うん・・・」




聞いているちひろが気もそぞろなら、話している俺も気もそぞろだった。
なにせ、褥の上でちひろと寝転がっているのである。
しかも、ちひろは俺の腕の中。いわゆる、腕枕状態。
俺の右肩のあたりをまるで枕のようにして、ちょこんと小さい頭を乗せている。
半身になり、ぴったりと俺に引っ付いている。
怯える幼子のようにも思える。
ちひろの頭に手をやりながら、昔話を続ける。

時折、ちひろの頭をいい子いい子するようになでると、ちひろは潤んだ瞳で見上げてくる。
純粋な瞳で見つめられるが、幼子のそれではない。

そのままにして、さらに俺は話をつづようとしたが、ちひろの様子に俺はそのまま話を続けられなかった。


「ちひろ?お前淋しいのか?俺の故郷や親友の話を聞きながら、自分のことを思い出しているんじゃないのか?」

「・・・・・」

「ちひろ、無理をすることはない。泣きたいときは泣け。ただし、泣くのは俺の胸でだそ!」

「うん・・・」

いまにも涙が溢れそうになっている瞳で俺を見つめる。
なんて愛おしいのだろう。
ちひろが頭をおいているその腕を、ちひろの背中に回しぎゅっと抱きしめる。
さらに、ちひろと密着する。

ちひろは涙を見られまいと、頬を俺の胸に埋める。
ちひろの背中にやった己の右腕はそのままに、ちひろを抱きしめ続ける。

ひとりぼっちでこの時代に迷い込んでしまったちひろを絶対に守ると心に決めた。
いつもは気丈ししてはいるちひろも、か弱い女子には変わりないのだ。
最初は、興味本位だったちひろへの気持ちも今は違う。
愛おしくて、愛おしくて、離したくない。

俺の腕の中のちひろを更に抱きしめちひろの存在を確かめる。



「晋作さん、続きが聞きたい・・・」
ちひろが俺の腕の中から顔をだし微笑む。

「ちひろ、どこまで話したか?俺は、過去の話より、今や未来の話のほうが好きなんだぞ」

「うん。」

ちひろの目がきらきらと輝き、その身をさらに俺に寄せる。
ちひろの柔らかな頬、細い指を備えた手のひらは俺の胸元に添えられる。
なんて、小さくて、やわらかなものなのだ。
なにがあっても、俺が守ってやらなければならないんだ。

俺も半身を起し、ちひろを両腕で抱きしめる。
俺の両腕の中にすっぽりとちひろが収まる。
二人丸まって卵のようだというと、ちひろがけらけらと笑う。
やっぱりちひろには笑顔が似合う。
ちひろの笑った顔が俺は好きなんだ。
俺は、ちひろが涙を流さないようにいつも守る。

ちひろをしっかりと抱きしめながら
俺は話を続ける。

ちひろとともにありたい、
今も、これからもずっと。
俺たちは後ろを向いていてはいけないんだ。
前だけを向いて、未来だけを見ていればいいんだ。
これから新しくなる時代をちひろと共に見ていくんだ。


抱きしめているちひろのおでこに口付けをひとつ落とす。
さらに、涙の露で濡れている睫にそっと口付け、ちいさな鼻にも・・・
緊張したのか、ちひろの背中が硬くなる。
その緊張をほぐすように、ちひろの後ろ髪を撫で、それから背中を撫でる。
そのまま、ちひろの柔らかい唇に俺のそれを重ねる。
なんと柔らかな感触だろう。女子の唇というのはこんなに柔らかなものだったのか?

このまま時が止まればいいとさえ、思った。
ちひろさえそばにいれば・・・
それでいいと思った。





チュンチュン。
鳥の声で目が覚めた。

ん?なんで?ここに?

あ、昨日はなぜか何もかもが不安で・・・
人恋しくて・・・
そんなことは言えずに晋作さんのそばに行ったんだった。
お話をしてもらいながら、そのまま眠ってしまったんだ。


晋作さんが泣きたい時は泣いていいって言ってくれた。
その言葉に張り詰めていたものが切れて涙がこぼれたけど・・・
なにか吹っ切れた。
気負わず、ここで過ごせるような気がする。



けど、これって・・・・・
横に広がる光景に思わず、笑ってしまう。
布団からはみ出して、大の字になって眠っている晋作さんがそこにいる。
髪にはかわいい寝癖がついて跳ねているし。
この様子を藩邸の人が見たら・・・
総督の威厳なんて吹っ飛びそう。

今日は、私が晋作さんの寝顔を見ちゃうもんね。

「晋作さん、おはよーー」






written by AMY 2011.4.30

かえさんちの茶室での話題「長州枕事情」晋作さんは腕枕で桂さんは膝枕。
木蓮さんの名言とか!これをネタにしたいと素材にもらいました。ありがとうございます!
(自分で考えろよーって感じですが・・・)
桂さんは出てこなくてごめんなさい。寝癖は入れてみましたー
っということで、みんなの妄想が盛り込まれたお話しを1万hit記念フリーSSの晋作のお話にしようと思います。


2011/06/30
AMYさんちの晋作さん、いただいてしまいました!むふふw
「長州枕事情」いいッスねー!桂さんは膝枕か…ぴったりッ(笑)
それにしても、いっぱい名前を呼んでくれる晋作さんが愛しい。。


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