瞳を閉じて見る夢は



布団に入る。
目を閉じる。
そうして一日の一番最後に思い浮かぶのは。

――いつだって、愛しいあの人の姿。



一日を終え、床に就いたおれだったけれど。
目蓋を閉じるとおれの愛しいあの人の姿が散らついて、どうにも眠れない。

だいたい、姉さんが可愛すぎるのがいけない。
くるくると変わる表情、太陽のような明るい笑顔、鈴を転がすような可愛らしい声、
どこか危なっかしく目の離せない立ち振る舞い、けれど、意志の強い真っ直ぐな瞳。
そんな姉さんに、誰もが惹かれる。その中で姉さんは、おれを選んでくれた。これ以上の喜びは、ない。

だけど、怖くなったりもするんだ。
あまりにも自分の心が姉さんを求めすぎて。
姉さんを好きになって初めて、自分自身の変化に驚き戸惑うことが増えた。
恋をするってこういうことなのか。
人を愛するってこういうことなのか。

どうやら今日もそういう日らしい。
これ以上床に就いていても眠れそうにないなと判断したおれは、身を起こすと羽織を羽織った。
そうしてそっと部屋を出る。頭を冷やすために縁側にでも行こう。

春も近付き、冷え込みも緩やかになってきている。
縁側に座り、ぼうっと空を見上げると、そこには上弦の月が沈もうとしていた。
輝く月を見ながら、はぁ、と軽く吐息を洩らす。

姉さんはもう眠っただろうか。
どんな夢を見てるんだろうか。
こうしている間にも想いは募ってゆく。
おれ・・・重症だな。

そんなおれの思考を妨げるように、微かな足音が静寂の中から聞こえてきた。
おれが驚いてその足音の方角に顔を向けるのと、

「・・・しん、ちゃん?」

姉さんの声が聞こえたのは、同時。

「姉さん・・・・・・!こんな夜中にどうしたんスか?!」

まさか想い人が現れるとは思ってもいなかったおれは心底驚いた。
それは姉さんも同じだったようで。

「眠れなくて・・・。慎ちゃんこそ・・・びっくりした・・・!」

大きな目を見開いて驚く表情も、やっぱりおれを強烈に惹きつける。
姉さんはそのまま俺の隣にすとんと腰を下ろした。
隣に姉さんが座っただけで、そちらの方向から暖かな熱が伝わってくる気がして、
おれの心臓の鼓動は、すこしだけ早くなる。

「慎ちゃんも、眠れないの?」
「・・・そうなんス」

そう答えると、姉さんはにっこり笑う。

「おなじだね」

――同じ、ではないだろう、とおれは内心そう思う。
おれがこんな風に眠れなくなるくらい、姉さんを想っているなんて。

・・・姉さんは知らないっスよね?

自分の心のうちを晒してしまいたい、
けれどそれは男として余裕のない行為のように思えて、
おれはその気持ちに無理やり鍵をかけた。
そうして内心焦りながら話題を探そうとしていると、
ぼんやりと月を眺めていた姉さんがポツリと言葉を落とした。

「お布団に入って目を閉じたら、なんだかとっても慎ちゃんに逢いたくなったの」
「だから、逢えて、うれしいな」

その言葉に驚いて、月明かりに微かに照らされる姉さんの横顔を見る。
おれがその綺麗な横顔から目が離せなくなっていると、姉さんは月を見上げたまま言葉を続けた。

「慎ちゃんは、いつも傍にいてくれるのに・・・・・・夢の中でも逢いたい、とか思っちゃう」

「・・・・・・っ、なんでそんな・・・!」

可愛いこと言うんスか、と言葉を続ける前に想いが溢れ、おれの身体は自然と動いていた。
気付けば、柔らかな姉さんの身体は、おれの腕の中。
姉さんの髪の香りがおれの鼻をくすぐり、何ともいえない甘さに背筋が痺れた。

「しん、ちゃ・・・」

おれの名を呼ぼうとする姉さんの声を遮るように、おれは姉さんの耳元で囁く。

「もう、知らないっスよ?」
「・・・・・・え?」

おれの顔を見上げた姉さんの柔らかな唇を、おれはそのまま奪った。
この込み上げる気持ちをどうしたらいいのか、もうわからない。
重ねる唇から、漏れる吐息から、気持ちが溢れ出しそうだった。
姉さんを想う気持ちがそのまま長い口付けとなり、
たどたどしくもそれに応えてくれる姉さんを、更にいとおしく思う。

「そんなこと言われたら。今夜はもう、ちひろを手離せない」

唇を離してそう告げると、姉さんは顔を赤らめながらも僅かに頷いた。

眠れぬ夜は、君のせい。
けれど、君が一緒なら。
共に同じ夢が見られるのなら。

もう一度ぎゅっと抱きしめると、おずおずと背中に回される腕。
おれは姉さんを抱きしめる腕に更に力を込める。
もう、一生、この腕の中に閉じ込めておきたい。そう、思った。






「瞳を開けて見る夢は」



夜が明ける。
目がさめる。
そうして一日の一番最初に目に入るのが。

――彼の寝顔なんて、これ以上の幸せ、あるかな?



東の空が白み始める。
暖かな微睡みの中をたゆたっていたわたしがふと目をあけると、愛しい彼の寝顔が目の前にあった。
そのあどけない子供のような彼の寝顔に、胸の中がいっぱいになる。
小柄だと皆からよくからかわれている彼だけれど、
その身体は男のひとのものでしかなく、わたしはその腕の中にすっぽりと納まってしまう。
裸で触れ合う皮膚の感触は、甘さを伴って何ともいえない心地よさで。
そのぬくもりに昨夜の彼を思い浮かべたわたしは、自分の頬が火照るのを感じた。
思わず少し身じろぎすると、その動きが伝わってしまったのか、彼はその瞳をぼんやりと開けた。

「ん・・・ちひろ・・・?」

普段はあまり呼ぶことのないわたしの名を呼ぶ彼に、胸の奥がきゅんと疼く。
恋をすると、本当に胸が「きゅん」ってするんだ――
彼を好きになってから、初めて知る感情がたくさんありすぎて自分でも驚いてしまう。
甘い気持ち、苦い気持ち、切ない気持ち。彼からたくさん教えてもらった。

そうして開かれた彼の真っ直ぐな瞳が、わたしに向けられる。
それだけでもう、どうしようもないくらい、好きだって思ってしまう。

「もう、外が明るくなり始めてるよ?そろそろ起きないと・・・」

そんな自分の気持ちを誤魔化すようにそう話しかけてみる。
すると、彼は間髪入れずに

「嫌だ」

そう言ったかと思うと、わたしの身体をぎゅっと抱きしめた。

「まだ、外は暗いっス」

子供のように駄々を捏ねる彼が可愛くて、いとおしくて、わたしの胸の奥がまた甘く痺れる。
ずうっとこのままでいたい。
お日様なんて昇らなくていい。
そんな気持ちが心の中に充満して胸がいっぱいになってしまう。

「しん、ちゃん」

そうして名前を呟くのが精一杯なわたしに。

「このまま時が止まってしまえばいいのに」

彼はそう呟き、そしてより一層強い力で抱きしめられた。

――どうしよう。幸せすぎて涙が出てくる。


「・・・!ど、どうしたんスか?!おれ、何か変なこと・・・?」

わたしの潤んだ瞳に気付いた彼が、抱きしめていた腕を緩めて慌てて訊ねる。
そんな彼に思わず笑ってしまい、その拍子に目に溜まった涙が流れるのがわかった。

「ううん、幸せすぎて・・・慎ちゃんのことが好きすぎて、涙が出ちゃった」

ごめんね、と謝ると、

「・・・そんな涙なら、大歓迎っス」

彼はそう笑って、瞼の上にキスを落としてくれた。
その優しい唇は頬を伝い、最後はわたしの唇へ。
そうして与えられたその甘い口付けで、わたしの心は幸せに震える。

「もう少し。もう少しだけ、このままで・・・」

唇を離して彼はそう呟く。それは、わたしと同じ気持ち。
身体に回される彼の力強い腕を感じながら、わたしは彼の胸に身体を預けた。
もう、一生、この暖かな腕の中にいたい。そう、思った。






素敵なフリーSSを頂いてしまいました!!
「うたたね」のゆうっち様より☆

10000HITおめでとうございます!!
幸せ色のほんわかストーリーをありがとうございます(*´υ`)♪
まさに胸キュン☆
本当に「きゅん」ってなりますw(←至福)

実は幕恋での初恋相手が慎ちゃんなmika…思い出深いお人なのです(* ̄∇ ̄*)

2011/03/29< /font>


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