あまのいと




――降りそそぐ光は天の糸――



背中にはお日様の香りが混じる畳の匂い。
目の前には大きな木目の天井が広がって…電気のない部屋を明るく照らすのは、
今は障子戸越しに降り注ぐ外光のみ。

固い畳に寝そべって、わたしは右手を伸ばして空をつかむ…
もう片方の手の平には…いま、一つの櫛が艶やかに反射せんとおさまっていた。


『もらっちゃった……桂さんの、大切な物』


先日の断髪式のあと、桂さんがやって来て…自分にはもう必要ないからと、
わたしに使うよう差し出した…桂さんのお母様の形見の品。


『桂さんのお母さんってどんな人だったのかなぁ…』


(形見の品なんていかにも高価そうな、大切なもの…
 いくら髪が短くなって使わなくなったからって、わたしにくれることないのに…桂さん)


『あ、小五郎さんって呼ぶ約束だった…』


まだ少し気恥ずかしさが残るけど、だいぶ呼び慣れてきたことだし…
わたしは心の中でも小五郎さんと呼ぶ事にした。その方がきっと咄嗟の時にも言いやすい。

艶のある漆黒に染められた手中の櫛には、細かく煌めく金のような粒が無数に入っていて…


『きれい……』


わたしは陽にかざして見たり,天井に光を反射させてみたり、
固くて滑らかな曲線を指でなぞっては確かめながら、櫛の存在を感じていた。
この櫛を使って小五郎さんはあんなに綺麗に髪を保っていたのかと思うと…
これさえあれば、わたしでも艶やかな髪になれるような気がした。


(小五郎さん、もしかして毎日これを使ってたのかな…?)


だとすればコレはもうただの櫛じゃなくて、
小五郎さんの分身にも等しい存在なんじゃないかと思う…
しかも、親から受け継いで大切にしていた物を、わたしに託すってことは…
それ相応の、なにか特別な意味があるのかもしれない。


(って、ないない!小五郎さんのことだから他意は無いってば、きっと…
 …きっと……?)


考えれば考えるほど頭の中は矛盾だらけだった。
わたし一人こんなに考え込んだところで、きっと彼の真意は分からない。
分からないなら聞いてみればいい。
確かめてみればいい、ただ…それだけのこと。

それを心のドコかで恐れているのは、小五郎さんが怖いからじゃない…
自分が傷つくのが恐いだけ。


(わたし、いつになったら小五郎さんの気持ちを確かめる勇気が持てるんだろう…)


だけど、今はまだ……
この小さな櫛をお守りにして、密かに彼を思っていたかった。


伝えてしまえば壊れてしまう関係なら、今はまだこのままで…

もう少し、踏み出す勇気が持てるまで…

傷ついたとしても、一人で立ち直れる自信がつくまで…

どうかこの状況に甘えさせてくださいと、
誰ともなしに祈りを捧げ…強く、強く願っていた。





――櫛からこぼれる光の筋は、隙間と金色の粒との間を交錯し…
 乱れた反射を繰り返しては瞳に映る様はまるで、黒海原に煌めく眩しい陽光のようだった――











2011/3/2
「進行形彼氏」の管理人ゆずさんへ
相互記念にかこつけて送りつけてしまいました☆笑

カツラー仲間のゆずさんが書いたプレイレポを読んで…
膨らんでしまった妄想SSです(^皿^;)


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