掌に初恋二つ
空には丸い山吹色のお月様。柔らかい光が足元を照らしてる、そんな夜。
私は小五郎さんの隣を歩く。
「すっかり暗くなってしまったね、疲れたかい?」
今日は小五郎さんの用事に付き合って、薩摩藩邸に行ったりお買い物に行ったりしていた。
思いの外時間が掛かってしまい、辺りはすっかり夕闇に包まれている。
「いいえ、大丈夫です!久しぶりに小五郎さんと一緒に出掛けられて、凄く嬉しかったですし!」
「ふふ、ちひろさん、嬉しい事を言ってくれるね」
だって、忙しい小五郎さんをちょっとだけ独り占め出来た1日なんだもん。私には凄く幸せな時間だったの。疲れる筈が無い。
今だって私を気遣って、歩幅を合わせてくれている。小五郎さんの方がよっぽど疲れている筈なのに。そんな優しさが嬉しくて。
ふわりと漂う春の匂いに目を細めていると、急に風が出て来たみたい。すると見る見る雲が出てきて、月を包み隠してしまった。
「あぁ、雲が出て来ましたね……暗くなっちゃった」
今まで月明かりのお陰ではっきり見えていた足元は、少し先も分からないくらいに闇に包まれてしまった。
すると差し出された、小五郎さんの手。
「ちひろさん、この先は足元が不安定だよ?良かったら、手を引こう」
「……あ、ありがとう……ございます!」
そして恐る恐る手を差し出すと、そっと手を握られた。
「……!」
私の右手と、小五郎さんの左手が触れ合う。
指先に全神経が集中してしまったみたいにドキドキする。
いつも、華麗な包丁捌きを見せてくれるしなやかな手は、見た目以上に大きくてびっくりした。
私が泣いていると、そっと涙を拭ってくれる綺麗な指は、思いの外骨ばっていて。
優しく頭を撫でてくれる掌には、立派な剣ダコがあって……。
「……小五郎さんの手って白くて綺麗だと思っていたけど……ちゃんと男の人の手だったんですね」
思わず本音が溢れた。
ドキドキしてうるさい胸を誤魔化したくて、慌てて捲し立てる。
「……私の手なんかよりもずっとキレイだし……あの、」
「おや、心外だな。ちひろさんにそんな風に思われていたなんて」
「え!あの、いや……褒めているつもりで……」
その刹那、急に強い力で引き寄せられたかと思うと、私は小五郎さんの腕の中に居た。
「こうやってちひろさんを抱き寄せるくらい、容易い事なのだよ?私は“男”なのだから……」
あぁそうだった。立派な男の人に、私は何て失礼を……。急に自分が恥ずかしくなる。
「あの、本当にごめんなさい!男の人って事は、も、もちろん分かって居たんですけど……あの……」
「……ふふふ、少し苛め過ぎたかな?大丈夫、分かっているよ」
私の髪に顔を埋めた小五郎さんが優しくそう言ってくれて。息が掛かって少しくすぐったい。
慌てて顔を上げると、さっきまで雲で隠れて居た月が、また顔を出している。
その優しい光で、はっきりと見える小五郎さんの顔。
綺麗で、優しい。だけどその眼差しは強い意思を持っている……大好きな、男の人……。
少しずつ近くなってゆく距離に、無意識に瞳を閉じた。そして触れた、柔らかい唇。
ゆっくりと目を開けると、目の前には小五郎さんの顔。長い睫毛が微かに揺れた。
恥ずかしくて嬉しくて、どんな顔をして良いのか、頭の中がぐちゃぐちゃになりかけている。そんな私の頬を大きな手が優しく包んでくれる。
「さぁ、帰ろうか。晋作も心配しているだろうからね」
今夜も眩しいくらいの月明かり。いつの間にか、もう雲は消えてしまっていた。
足元ははっきり見えているけど、私達の手は繋いだままで。
私を引いてくれる大好きな大きな手。
やっぱり、私はいつも小五郎さんに守られているんだと、急に胸がいっぱいになる。
繋いだ指先を強く絡める。この熱が、貴方に伝わりますようにと、そっと願いを込めて。
「……私、小五郎さんが好きです……」
貴方に寄り添って、そう呟く。すると、小五郎さんもギュッと手を握ってくれた。
「私も、ちひろさんを愛しているよ……」
了
(2011.3.10)
Dear ゆずさん
1万HITおめでとうございます!!
記念のフリーSSを早速頂戴し、飾らせてもらいましたw
桂さんの「私は“男”なのだから…」って台詞にドキドキして…その後の甘い展開に心臓が鷲掴み〜〜(>_<)
(この二人って初恋同士だったのですね…純情ぉッ///)
本編ではなかなか味わえない、幸せstoryをありがとうございました!
カツラー仲間万歳☆ これからも宜しくお願い致します(*´υ`)vV
From mika (2011/03/11)
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