見えなかったものも今は
Amazing Grace, how sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost but now am found
Was blind but now I see…―――
『頼む、彼奴を未来に帰してやってくれ』
其の願いに、私は応えた。
晋作、心底お前に感謝しているよ。あの時、お前がそう言ってくれなかったなら。きっと私は、彼女を此の時代に引き留めてしまっただろう。
お前の言葉は最早、決して手に入れてはならないと言う神からの忠告だったのかもしれない。
其まで己の想いすらも自ら気付けない程に鈍感だった私は、彼女を帰した時……泣いてしまったんだよ。手離してしまうのが苦しくて、悲しくて。
あぁ、思えば彼女は、この桜の花弁のようだった。
風がそよぐ度に散り、はらはらと翻っては舞い上がり、一度手に入れたと思ったら、ふと広げた瞬間に何処かへ飛び去って行った。
「――…おや」
桂くん、と呼ばれた私は、仰ぎ見ていた桜の木の下、其の声を掛けた人に振り返った。
「……大久保さん、」
お久しぶりです。
ゆっくりとした足取りで此方に歩み寄る彼に一礼し、再び桜に向き直る。
「――…桂くん…、いや、木戸くんだったな」
すまない、と柄にもなく謝罪した彼に笑い返して見せた。すると安堵したように息を吐いた後、静かに訊ねた。
「今の歌は小娘が?」
「…はい」
全く、耳敏い人だ。
「…ふん、私は君の考えを窺い見れる程目敏くもあるがな」
「……………」
口に出さずとも、私の心まで読んだのだと言う。
…そうか。昔から只者ではないと思ってはいたが。
私とは違い、此の人には見えないもの等無いのであろう。
「…本当に凄い御方だ」
「昔からな」
「では、此の歌は貴方が唄うべき歌ではないかもしれませんね」
「……何?」
――アメイジング・グレース、なんと素晴らしい言葉だろう。
私のような愚かな人間も救ってくれた。
自分を見失っていた時期もあったが今は大丈夫、見えなくなっていたものも今はちゃんと見えるから…――
「…お待たせしてすみません。では、行きましょうか」
「…あぁ」
相変わらず何もかも見透すような目をした彼は、はぐらかす私を訝る様子もなく只頷き答える。
そうして私は、愛しい人たちを想わせる桜の木に背を向けた。
傍らを歩む人と笑みを交わしながら。
晋作。
ちひろ。
私はもう、大丈夫だ。
独りで泣いてなどいないから。
『見えなくなっていたものも今は、』
(失ったからこそ見えるものを胸に、私はこの時代を生きていく)
参照:Amazing Grace(作者不詳)
終
◇◆
以前アンケートで瀧澤のシュガーレスを読みたいと仰っていた『月夜に恋して…』mikaさんへ勝手に贈らせてください。
しかし期待外れだったかも…。相変わらずワケわかんなくてごめんなさい……orz
実は密かに桂√風を見てしまいました。あんなに風は見たくないと言っていたのに。だけど眼帯スチル見たさに攻略してしまい…案の定、切なさに苦しみました。
因みに『Amazing Grace』は風終幕後に脳内BGMとして流れた歌でした。
この二人の間に長州と薩摩の因縁など皆無だ、と。
失った悲しみよりも、手に入れた喜びの方が大きかった筈だ、と。
彼らの魂は、この国に今も息づいている、と。
そう信じています。
by瀧澤
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Dear 瀧澤さん
実はシリアス(無糖)も美味しくいただいちゃうmika(雑食?
なのでとーーっても魅力的でした!
桂さんの風終幕は、本当に切ないですが……でも大好きな話の一つです(*´υ`)
瀧澤さん、素敵なギフトSS本当にありがとうございました!
お返事&掲載が遅くなって申し訳ありませんっ(;・д・)
それから押しつけに近い感想SSメールへの返信(5/5に貴サイトにて)もありがとうございました!
こちらこそ、拙いメモ書きで恐縮ですが……喜んでいただけて嬉しかったですvV
掲載についてですが、あんな走り書きだけど...f(^_^;) どうぞご自由に!なんでもOKです☆
(実は手元のログをなくしてしまい、内容が全く思い出せません...orz)
こんなマイペース&忘れっぽいmikaですが、これからも宜しくお願い致しますー♪
2011/05/18 mikaより
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