恋に惑えば final



並んだ丘の頂にある蕾を摘むと、一際甲高い声が麻琴から上がった。
彼女の頬は紅く染まり、次第に息が荒いでゆく…


(そうだ、もっと感じて欲しい…もっと、もっと…)


私の袖を掴む彼女の手に力が込められ、それを離すように己の着衣を脱ぎ捨てた。
そうすることで彷徨った華奢な掌が、私に縋るように触れる…腕に、背に。

愛しい人が自分に触れ、頼る…それがこんなにも嬉しいことだったなんて、
こんなにも温かで、幸せな気持ちになれるなんて知らなかった。

私はその歓びを返すように、麻琴の身体を愛した……


『あっ!やぁん…!ぃやっ…舐めちゃ、ダメ…!』

「…駄目?本当に…?」

『やっ…!ちがっ、ダメ…じゃなっ…い、いぃ…!』

「気持ち良い?」

『…ぅんっ、でも、ちょっと…苦しい…っ』

「………」


正直、私も苦しいのだが…今はまだ麻琴の愛撫に専念したかった。
彼女の要処はどこか…彼女の求めるもの…それを探している筈が、
己の欲望を満たしているだけにも思えた。

それが良いか悪いかなどと考えている暇はなく……

そもそも先刻から理性を捨て去っている私に、
残された行動は…飢えと乾きにも似た己の望みを叶うのみ。


柔らかな太腿に手を滑らせて、そっと付け根にあてがうと…僅かに湿り気を帯びていた。
ゆるゆると忍び寄るかのように割って入ると、
熱い口から滴るものが私を待ち受けていたかのように包み込む。

片手に彼女の心…左の胸を包みながら、麻琴の声を私の口唇で封じ、
包み込まれる指を増やし、少しずつ中に押し進めていった…


『……っ!…っ…んん…っ!』


指のつけ根まで埋まったところで一掻きする度に、麻琴の腰が浮つく。
それに変化を加えて続けていると、麻琴の身体は跳ね上がり、震えるようになった…

性急だろうかと不安に思い、そろりと唇を離すと…溜め息と共に涙がこぼれ落ちる。


『…っ、はぁー…はぁ……』

「麻琴?…ごめん、辛かった?」

『ううん、違うの………私、こわい…自分がおかしくなりそうで…』

「…………」

『苦しいのに、でも気持ち良くもあって、オカシイわたし…自分が自分でなくなる……恥ずかしい』

「どんな姿でも、麻琴は麻琴だよ?…私は麻琴が感じてくれて嬉しい。
 出来ればもっとおかしくなってもらいたい、私のこと以外は考えられなくなるくらいに…」

『ふふっ…考えてないですよ、小五郎さんのことしか。いつも…』

「では今はもっと、私だけを見て、感じ取ってくれ…」

『…小五郎さんのこと……知りたいです』

「うん…」

『もっと欲しい…もっと近くに感じたい…』

「私も…もっと麻琴を感じたい、愛しているから…」

『……っ!』

「だから……俺に全てを頂戴?」











耳元で囁かれた最後の一言に、鳥肌が立った。

その原因は彼のセリフだけじゃない…身体にも異変があったから。
ジワリと熱く湿った部分に小五郎さんの硬いものが触れて、下腹部を圧迫してく…


『あっ、あっ、やっ……むりっ!』

「麻琴、もっと…力を抜いて…」

『やっ、あっ…だって…っ…いっあぁぁぁ!』

「………っ、く…」

『…っ…はぁ!…ぁ』


あまりの痛さに目がチカチカした。
止まってた涙がまた滲んできて…今日は本当に泣いてばかりだと思った。

痛くて苦しくて、辛いのに…でも止めてほしくなくて…わたしは懸命に堪えた。
ほとんど無意識に、小五郎さんに触れていた手に力が入って指が食い込む…

最初は痛みに湧いた涙だったけど、すぐにその意味は歓びに変わっていた。
だって小五郎さんと、やっと一つになれたから……


「ッ……わかる?麻琴…」

『うん、わかるっ…感じるよ…』

「動いても…平気?」


コクリとわたしが頷くと、ゆっくり彼が動き出す。
改めて見上げた小五郎さんの額には汗が滲んでいて…そんな姿を初めて見たと思った。


(小五郎さんも、感じてくれてるのかな…だったら嬉しいな……)


痛みを堪えるだけだった刺激が、次第に本質を変えていって…
その初めての違和感が「快感」と呼ばれるものだと気付く頃には、
わたしの理性は完全に崩壊していたのだと思う。










小五郎さんがわたしの下腹部を突き上げて、上からは胸を弄ぶ。
そうして全身を駆け巡る痺れるような感覚に堪え切れず、
声を張り上げてしまったわたし……


『あッ…あぁっ…!…やっ…っっぁああ!!』

「…っ…麻琴……!」


どんどん速く、強くなる刺激と振動。
揺れ動くわたしを小五郎さんが抑えつけて、より深い部分に何かが触れる。
その痛い程に体を支配する感覚…
自分が狂ってしまうような、周りが見えなくなる不安…
体が壊れそうな激しさと、得体の知れない何かが込み上げてくる感覚があった。

不安と恐怖と、混乱と苦しさに混じって消えた…期待。
僅かに残る羞恥にも耐え切れなくて、わたしは思わず拒絶の言葉を吐いてしまう。


『…っや!…ぁん…もうっ、だめぇ!!…離してッ…くるっ、しい!』

「…………ッ…くっ…」

『やめてッ…おね…がい……あぁんッ!』

「無理だっ…もう、止まらないッ…」

『あぁっ…ん…あぁ!ぁああ――――ッ!』


わたしは声にならない叫びを噛みしめて、襲いかかる波に包まれた。

苦しくてドキドキしてたのを一瞬で忘れるくらいの、
真っ白でなにも見えない、思考も身体も動けなくなる世界・・・


それが訪れたのは、小五郎さんと繋がった熱い部分…
奥深く抉るように満ち満ちて、彼にキツく抱きしめられた後に――

何かが跳ねるのを感じた直後のことだった。



遠のく意識の中で、なにを見たかは覚えてない。
覚えているのは疲労感と達成感がごちゃ混ぜに同居した、満たされた感覚…


――肌に残る温もりと、小五郎さんの優しい声色だけだった・・・




「……してる…」

『………?』

「愛しているよ、心から……」












―終―





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