恋に惑えば4
わたしは小五郎さんの熱を感じていた。
繋いだ手のひら、覆いかぶさってくる身体、それに合わせて
より深く、より長く、交わる唇…
自分のものとは異なる熱で満たされて、かき回されてゆく口の中。
だんだんと溶け出すような混ざり合う感覚に、気が付けばわたしは夢中になっていた。
いつまでもずっと、繋がっていたいと思うほど……
これから何が起こるのか、それは目を瞑っていても分かるから…
緊張と、歓びで、頭がおかしくなりそうだった。
こんな幸せなことってない。
わたしは今、あの小五郎さんに求められてる…
一人の女として、扱ってもらってるんだ……
小五郎さんが、わたしを抱きたいって思ってくれてる。
涙のせいでぼやける視界のまま…
目の前にいる人の、普段とは少し違う姿に胸が詰まった。
思ってたよりずっと熱くて激しくて、でも繋いだ手だけは優しくて、温かい…
とても欲張りで強引で、猛々しいような……
多分それが、男の人…なんだと思う。
縫い付けられるように布団に貼り付いた、
押しつけられてる彼の体は自分の力では動かせない。もう逃げられない…
もとより逃げるつもりはなかったけれど、少しの不安に心臓がより強く跳ねつく。
わたしは、自分が臆病風に吹かれて逃げ出してしまわないように…
小五郎さんがわたしを気遣って途中でやめてしまわないように…
――ゆっくりと、自ら浴衣の帯を、解いた…――
*
今宵初めて知る麻琴の内側。
その感触に、香りに、私は自制を失って…
もっと深く、もっと知りたい…そんな事を思っていた。
繋いだ手を彼女が握り返してきて、互いの呼応を合わせるように交わす行為…
それはまるで私を求めるような動作で…
都合の良いことに、誘いを受けたように感じた。
それが間違いでないと確信したのは、
彼女の身じろぎと、自らの手で解いたもの…それに気が付いた時。
まるで退路を断たれたような、後押しされたような状況下で…
息つく私に彼女が微笑み、私はただ「ありがとう」と囁いた。
囁いてその先、麻琴の耳を、首筋を、
愛しさの余りに唇でなぞり、ついには舌を這わせていた…
『ふふっ、くすぐったい…』
「……。できれば感じて欲しいのだけど」
『感じてますよ?色々と…』
「ずいぶんと、余裕だね…」
『余裕なんてないですよ、心臓はち切れそうです…』
「本当に?」
『ほんとですってば』
「そう?じゃあ……見せてくれる?」
*
なんの抵抗も無く、わたしの着物は左右にはだけてしまった…
その姿を、少しだけ離れて見つめる小五郎さん。
夜中とはいえ…暗闇に慣れたわたし達の瞳に、月の光は十分な明るさで…
(見られてる……)
そう思うと羞恥に震えた。
何もしない、何も言わずに見つめ続ける彼に耐え切れず…
わたしはありったけの勇気を振り絞って問いかけた。
『なにか…言ってください……』
「……あぁ、ごめん…」
ゴメンの一言に絶望したわたしの心に、ゆっくりと彼が話しかける。
「麻琴があんまりにも綺麗だったから…その…言葉を失ってつい魅入ってしまった。すまないね…」
『……わたし、キレイなんかじゃありません。胸だってないし……』
「そうかい?」
“俺はそうは思わない…”そう小さく呟いて、小五郎さんがわたしの身体に触れてゆく。
足に、腰に、おなかに、胸に……
下から上へと膨らみを撫でつけながら、
辿り着いた突起に手をかけて、わたしの心を激しく揺さぶった。
『きゃっ…あぁんっ!』
その時わたしの口から漏れた声は、普段のわたしとは異なった、
なんだか恥ずかしくなるような耳慣れない声だった…
自分で自分に驚いて、思わず口を塞いだわたしを小五郎さんが窘める。
「駄目だよ……閉ざさないで、聞かせて?」
『で、でも…やっ…はぁあんっ…!』
(は、恥ずかしい…変な声が勝手に出る…っ)
わたしの思いとは裏腹に、勝手に反応する身体を抑え切れず…妙に響く変な声が漏れ続けた。
そしてそれを、どこか楽しげに、嬉しそうに?聞いて見ている小五郎さん…
彼の中に、こんな性が眠っていたのかと思った次の瞬間に、
自分のことを初めて「俺」と言った時のことを思い出して……
眠っていたのではなく、意図的に隠していたのかな?と思い直した。
そんな彼から与えられる視線や声、控え目な動作や表情の一つ一つ、全てが愛しい……
(恥ずかしくて死にそうなのに…
でも、もっともっと小五郎さんを近くに感じたいって思ってる、わたし…)
2011/02/2?
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