恋に惑えば4



わたしは小五郎さんの熱を感じていた。
繋いだ手のひら、覆いかぶさってくる身体、それに合わせて
より深く、より長く、交わる唇…

自分のものとは異なる熱で満たされて、かき回されてゆく口の中。

だんだんと溶け出すような混ざり合う感覚に、気が付けばわたしは夢中になっていた。
いつまでもずっと、繋がっていたいと思うほど……


これから何が起こるのか、それは目を瞑っていても分かるから…

緊張と、歓びで、頭がおかしくなりそうだった。


こんな幸せなことってない。

わたしは今、あの小五郎さんに求められてる…
一人の女として、扱ってもらってるんだ……

小五郎さんが、わたしを抱きたいって思ってくれてる。


涙のせいでぼやける視界のまま…
目の前にいる人の、普段とは少し違う姿に胸が詰まった。

思ってたよりずっと熱くて激しくて、でも繋いだ手だけは優しくて、温かい…
とても欲張りで強引で、猛々しいような……
多分それが、男の人…なんだと思う。

縫い付けられるように布団に貼り付いた、
押しつけられてる彼の体は自分の力では動かせない。もう逃げられない…

もとより逃げるつもりはなかったけれど、少しの不安に心臓がより強く跳ねつく。

わたしは、自分が臆病風に吹かれて逃げ出してしまわないように…
小五郎さんがわたしを気遣って途中でやめてしまわないように…


――ゆっくりと、自ら浴衣の帯を、解いた…――











今宵初めて知る麻琴の内側。

その感触に、香りに、私は自制を失って…
もっと深く、もっと知りたい…そんな事を思っていた。

繋いだ手を彼女が握り返してきて、互いの呼応を合わせるように交わす行為…
それはまるで私を求めるような動作で…
都合の良いことに、誘いを受けたように感じた。

それが間違いでないと確信したのは、
彼女の身じろぎと、自らの手で解いたもの…それに気が付いた時。


まるで退路を断たれたような、後押しされたような状況下で…
息つく私に彼女が微笑み、私はただ「ありがとう」と囁いた。

囁いてその先、麻琴の耳を、首筋を、
愛しさの余りに唇でなぞり、ついには舌を這わせていた…


『ふふっ、くすぐったい…』

「……。できれば感じて欲しいのだけど」

『感じてますよ?色々と…』

「ずいぶんと、余裕だね…」

『余裕なんてないですよ、心臓はち切れそうです…』

「本当に?」

『ほんとですってば』

「そう?じゃあ……見せてくれる?」











なんの抵抗も無く、わたしの着物は左右にはだけてしまった…

その姿を、少しだけ離れて見つめる小五郎さん。
夜中とはいえ…暗闇に慣れたわたし達の瞳に、月の光は十分な明るさで…


(見られてる……)


そう思うと羞恥に震えた。



何もしない、何も言わずに見つめ続ける彼に耐え切れず…
わたしはありったけの勇気を振り絞って問いかけた。


『なにか…言ってください……』

「……あぁ、ごめん…」


ゴメンの一言に絶望したわたしの心に、ゆっくりと彼が話しかける。


「麻琴があんまりにも綺麗だったから…その…言葉を失ってつい魅入ってしまった。すまないね…」

『……わたし、キレイなんかじゃありません。胸だってないし……』

「そうかい?」


“俺はそうは思わない…”そう小さく呟いて、小五郎さんがわたしの身体に触れてゆく。

足に、腰に、おなかに、胸に……

下から上へと膨らみを撫でつけながら、
辿り着いた突起に手をかけて、わたしの心を激しく揺さぶった。


『きゃっ…あぁんっ!』


その時わたしの口から漏れた声は、普段のわたしとは異なった、
なんだか恥ずかしくなるような耳慣れない声だった…

自分で自分に驚いて、思わず口を塞いだわたしを小五郎さんが窘める。


「駄目だよ……閉ざさないで、聞かせて?」

『で、でも…やっ…はぁあんっ…!』


(は、恥ずかしい…変な声が勝手に出る…っ)

わたしの思いとは裏腹に、勝手に反応する身体を抑え切れず…妙に響く変な声が漏れ続けた。

そしてそれを、どこか楽しげに、嬉しそうに?聞いて見ている小五郎さん…

彼の中に、こんな性が眠っていたのかと思った次の瞬間に、
自分のことを初めて「俺」と言った時のことを思い出して……

眠っていたのではなく、意図的に隠していたのかな?と思い直した。



そんな彼から与えられる視線や声、控え目な動作や表情の一つ一つ、全てが愛しい……



(恥ずかしくて死にそうなのに…

 でも、もっともっと小五郎さんを近くに感じたいって思ってる、わたし…)












2011/02/2?


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