恋に惑えば3
かつて無いほど真剣に、お互いに感じたことや考えを、
ゆっくり、確実に吐露してく。
沢山のことを話して、伝えて…
思いもよらない答えを聞いた夜になった。
知らなかった…
小五郎さんがそんなことを考えていたなんて。
知らなかった…
小五郎さんがそんな風に思ってくれてたなんて。
(わたしには小五郎さんしか見えてなかったのに…
何時でもあなたのことで一杯だから、遠慮なんかする必要ないのにね…)
でもわたしは嬉しい。
彼を知ることができて本当に嬉しい…
相手を気遣い、未来を見据える、優しいあなたに触れることができた。
『小五郎さんは優しいですね。優し過ぎるくらいです…』
「そうかな?ただの利己だと思うけど…」
『小五郎さんの利己は、みんなの幸せを前提にして成り立ってますよね。
自分勝手に他者を安全に導いてるんです…みんなにとって平和な未来のためにって、
それって何だかスゴく…犠牲的な利己です』
「それは…面白い表現だね、正反対の掛け合わせだ。でも……ありがとう、麻琴さん」
『小五郎さん、たまにはもっと…ちゃんとした自分勝手を通して、我がまま言って下さいね?
でないとわたし…あなたが辛いと、苦しいんです……ごめんなさい、わたしの方がよっぽどワガママ…』
「ふふっ…麻琴さんのそれも、随分と犠牲的な利己だね。私は幸せだ……君がいてくれるからね…」
(わたしの前でくらい…もっと自分に忠実に、ワガママな面も見せて欲しい…)
(でも、それは……ヤッパリ、わたしのエゴでしかないんだ。
「もっとわたしを必要として欲しい」「もっと彼を知りたい」っていう自分勝手な……エゴ)
全てを知り尽くすなんてホントは無理だって分かってるから、
彼の心に触れられた、今この瞬間が愛しかった……
愛しくて嬉しくて…涙が出ちゃう。
(そっか。涙って、悲しい時や悔しい時だけじゃなくて、嬉しくて幸せな時にも出てくるんだ……)
*
聞いて欲しい…
私の願い、私の我が儘、私の打算。
“物事は最後まで見極めてから判断を下す”
そんな当たり前のことが…
当たり前のようにしてきた、そうすべきだと考えてきた事が…通用しないと気が付いた。
殊に「恋愛」に関しては・・・
「麻琴さん?泣いてるの…?」
『………っ、嬉しくて…つい』
彼女の頭に触れて、優しく撫でれば子猫のようにうずくまる…
その仕草に私の心は和らいで、幸せを噛みしめていた。
私を見上げる表情が、涙で濡れた瞳が、いつにも増して艶やかで、胸がざわつく…
こんなに綺麗で優しい、素直な心の持ち主。
どこか鈍いのに敏くもある、聡明で可憐な愛しい人…
(そんな君が幼い子供のようだなんて思える筈がない。
だのにまさか、そんな事を気にしていたとはね…)
好きだからこその大切にしたい気持ちと、隠しておきたい本心が、裏目に働くこともあるのか。
思ったままに突き進む…
そんな無謀で身勝手なことが、許されてしまう恋愛。
許されるどころか、この場合……
それを伝える事、それを望む事が歓ばれ、しいては互いの幸せに繋がる。
(そんなこと考えもしなかったな。
相手を尊敬し、思い遣ることが愛情だとばかり…)
愛や情などといったものは、もはや人知を超えたところにあると言っても過言ではない。
だからこそ、通じ合った時の喜びが、こんなにも大きい・・・
*
「でも、本当にいいのかい?我が儘を通しても… 後悔、しない?」
『しませんよー。小五郎さんこそ、私を選んだこと…後悔しませんか?ホントに?』
「うん…しないよ。約束する…」
(もっともっと知りたいんだもん……後悔なんてしないよ…)
クスリと笑って答えた彼。
その少しだけ上気した頬の、照れた笑顔が可愛らしい。
いつもより少し砕けた雰囲気がくすぐったくて…
でも小五郎さんにまた少し近づけたような気がして嬉しかった。
今までのやりとりを思い返したら急に照れくさくなってきて、
それを隠すように彼の胸に顔をうずめたら…ギュッと手厚く抱き締められた。
意外な程のその力強さに、どんなに綺麗で細くても、やっぱり男の人なんだよなぁと思う。
なんだか悔しいから…わたしも力いっぱい抱きしめ返した。
ギュッとぎゅうーっと腕に込めた力も、いよいよ持続できなくなったとき、
一息つこうと顔を上げたら、満面の笑みの小五郎さんがいた。
愛に溢れた表情が、自惚れではなくわたしに向けられているのだと思うと、
この上なく幸せな気持ちになって…とにかく、もう…なんて言ったらいいか分からない。
彼にそれを伝えたくて、表そうにも、月並みな言葉しか浮かばなくて…
でも、心はもっと大きな温かいもので満ちている。
『小五郎さんありがとう…わたしのこと好きになってくれて』
「ふふっ それは私も同じだよ?
ありがとう。こんな気持ちを私に教え、受けとめてくれて…
私を必要とし、応えてくれて…」
そう言いながら重ねられた唇に、飲み込まれた二人の「ありがとう」という言葉。
同じ言葉を繰り返すばかりでわたし達、芸がないかもしれないけど…
それが本心で、伝えたいことの全てだから仕方ないよね。
でも、それでも溢れ出しては止まらない想いは…
その心に忠実に、従うままに、身体で伝えられたらいいのにと思った。
だからわたしは彼の手を取って握りしめ、自分の左の胸にそっと添えた。
上手く言えない心と身体を捧げたくて……
重ねた唇を離して、驚いたようにしている彼に伝えたい…
さっきの言葉がどれだけ嬉しかったかを。
『…好き、だいすきです。
だから・・・』
その先は恥ずかし過ぎて言えなかった。でも伝えたい……
言葉の代わりに、胸に添えた手を軽く押し当てて…
わたしは態度で示す努力をした。
(だから・・・ねぇ、触って?)
*
迷いや不安が一抹も無いと言ったら嘘になる。
「本当にいいのか?」という自問が繰り返される中、彼女の一言に驚いて…
そのあとの行動に、何かが突き動かされたのも事実。
彼女からすれば思惑通りになるのだろうか……
私は漸く彼女と向き合う覚悟を決めた。
「ああ、私もだ……」
望んでも良いのだと、彼女が教えてくれたから…
男の私を差し置いて、懸命に伝えてくれたから…
(ありがとう・・・)
――深く深く口付けを交わしながら、私は麻琴の身体を仰向けた――
2011/02/24
あぁもう、じれったい……!
もっと強引になっていいのですよ、小五郎さん!!(でも書くのは恥ずかしい)
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