恋に惑えば2
『あのぅ…もしも、勘違いじゃなかったらどうしますか?』
彼女の冷えた手を暖めていると、信じられない台詞が耳に飛び込んで来た。
――今のは幻か?――
我ながら間の抜けた顔をしてしまったと思う。
でも、目を見開いて、確かめた矢先に君の口が再び同じ言葉を紡ぐ・・・
『もし、そういう意味で言ってたとしたら…小五郎さん、どうします?』
「そういう意味、とは…どんな意味だい?」
『それは小五郎さんが一番よく分かってるんじゃないんですか?』
「いや、私と君の考えが必ずしも同じとは限らないだろう…麻琴さんはどんな意味だと思っているのかな?」
『むぅー…言い出したのは小五郎さんなのにっ、わたしに先に言わせようとするなんてズルいと思います…!
こういう場合、先に白状すべきはあなたでしょ?』
少しむくれて、怒りながら話す君も可愛いらしい…などと今は考えている場合ではないのだが、
私は戸惑いや躊躇いから抜け出せずに、またも沈黙という逃避癖を発揮してしまった。
そうこうしている内に、痺れを切らしたように彼女が口を切る。
『もう…いいですっ そんなに嫌なら話さなくて…』
「……え?」
『小五郎さんが何を思ってるかなんて、聞かなきゃ分からないし、
できれば知りたいと思うけど…でも無理に言わせようとして困らせるのも嫌だし……』
はぁ…と小さく溜め息をこぼしながら俯く彼女に、
私は打ち明けたい衝動に駆られるが、理性がそれを止めさせた。
『でも、いつか、言える時が来たら…話してくれますか?
わたし知りたいんです…小五郎さんのことなら、なんでも…』
―――縋るような上目遣いで、潤んでは揺れる彼女の瞳に釘付けになった。
*
(やっぱり違ってたのかな・・・?
小五郎さん真面目人間だし、固そうだもんなぁ。ちょっと期待して損した…)
そもそも、わたしなんかが誘惑できると思ったのが間違いだった。
(小五郎さんみたいな人が、こんな小娘相手に欲情するとは思えないしなぁ…)
自分で「小娘」言ってて悲しくなってくるけど、
実際私はまだそう呼ぶに相応しい…時代に不慣れな出来損いなわけで、
そうすると今までのスキンシップの数々も全部、幼い子供のように可愛がられてただけな気もしてくる。
(だいたい…こうやって毎晩一緒に寝てるのに、何もない時点で眼中ないんじゃ!?)
好きは好きでも、まだ大人の恋愛と同等には扱ってくれないのかもしれない…
もしかしたら、優しい小五郎さんは私が大人になるのを待っててくれてるのかもしれない…
そう思うと妙に切なくて、情けなくて、沈み込む気持ちを抑えられなかった。
(今のわたしじゃ、子供過ぎてダメなのかな・・・)
じわりと目に熱いものが込み上げてきてしまい、
慌てて拭うと、ポンッ…と頭に優しく温かい手が置かれた。
「そんなに私の事が知りたいのかい?どんなことであっても?」
『……知りたい…です』
「じゃあ教えようかな……
でも、これは麻琴さんだから教えてあげられるのだからね?」
そう言って微笑む彼の顔がゆっくりと近づいてくる・・・
『え…?』
(そういえば、いつの間にか手がない…)
握られていたわたしの手が自由になっているコトに気付き、
彼の手はどこへ行ったのかなと考えているうちに…
わたしの唇は小五郎さんに奪われていた。
(キスなんて初めて・・・)
わたしはドキドキする胸を押さえ、目をとじて……
無我夢中で受け止めた。
*
“何でも知りたい”
そう言った彼女に私は情を注いでいた。
今までにない形であり、ずっと内に秘め、望んでいた形…
私も知りたかった。
彼女の思い、彼女の望み、彼女の全てを…
そして知って欲しい。
どれだけ私が貴女を思っているのかということを…
結局はじめに想いを切り出したのは彼女だから、
狡いと言われるかもしれないが、二番煎じで終わるつもりは無かった。
「私も知りたいんだ、麻琴の全てを…
教えてくれる?」
――長く口付けを交わしたあと…
耳元に問うと、麻琴は小さく頷いた――
2011/01/27
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