恋に惑えば1




――私は麻琴に惚れている――


そして彼女も私を好いてくれている。
だからこうして同じ時間を共に過ごす。

何もしなくていい。
会話がなくても構わない。

“側にいる”それだけで、美しくも儚い…贅沢で満ち足りた一時になる。

けれども時々、すぐ側にいるのに遠くに感じ…切なくなる瞬間があるのも事実。
君には悪いが、そういう時にはこうして確かめたくなるんだ。


「すまないね…」


私は抱き締めた腕を解いて、今しがたの強引さを詫びた。

彼女の気持ちを聞きもせず、なんて手前勝手なことを…と情けなくなる。
詫びながら私は、どうかこの振る舞いの理由は聞かないで、
真意にも気付かないでいて欲しい…そう願っていた。


彼女が私を振り仰ぎ、至近距離からジッと見る。
私は申し訳なさから顔を逸らし、更には距離を置こうと身じろいでいた。


『小五郎さん、あの…』

「ん?なんだい…?」


努めて自然に冷静に、普段の口調で…
私は天井を向いたまま答えていた。


『あの…あの……』

「?」


そこで再び横を向くと、僅かに頬を染めて微笑む君と目が合う。


――ああ、まずいな――


私はこの瞳から目が離せないのだよね。
見えない力で引き込まれるようで…… 弱ったな…

そんなことを考えながら互いに視線を絡ませて沈黙していると、
腕に冷たい何かが触れる。彼女の小さな掌だった。

戸惑いがちに触れる仕草よりも、
その冷たさに私は驚いて、思わず両手で握り返していた…


「ずいぶんと冷えてるじゃないか…なぜ?」

『え? えーと、それは……』


理由があるなら聞かせてもらいたい。
先を促したのには他意はなく…私はただ訳を知りたい一心だった。


「…それは??」

『多分それは…小五郎さんに、暖めてもらうため、だと思います…』

「………」

『小五郎さんって、心も身体も温かいんですね…』


そんな殺し文句を吐きながら、
ふふふ‥と幸せそうに微笑む君を前に、私は一体どうしたらいい…?


「私は…」

『?』

「私に…麻琴さんは暖を求めているのかい?」

『…??』

「身も心も、暖まりたいと思う?」

『んー…そうですね。わたし、小五郎さんに暖めて欲しいです…
 二人で一緒に温まれたら嬉しいなって思いますよ?』

「・・・・・」

『…あの…迷惑でしたか?』

「いや!そんなことはないよ。ただ少し…」

『少し…どうしたんですか?』

「少しね、勘違いしてしまいそうな言い方だなと思っただけだよ」



もしかすると、彼女は私を求めているのかもしれないなどと…
思う私は自意識過剰もいいとこだ。











(勘違い……?)

わたしはその意味を計りかねて考えた。

(別の捉え方があるってことかな?)


自分の発言を省みて、わたしは別の解釈をさがした。


(小五郎さんに暖めて欲しい。一緒に温まれたら嬉しい…って言ったんだよね?わたし…)

(あれ?もしかして…コレって誘い文句になるのかな??「私を温めて」って思いっきり誘ってるよね?)

(ん?誘う……?)


『・・・・・』


わたしはそこでようやく別の意味に気が付いた。

こんな時間にこんな場所で、これほど至近距離にあるという時に、
恋人に向かってああいう風に言うことは…そういう意味にも取れるのかもしれない……!

いや、このシチュエーションだったら、そう解釈する方が普通なのかもしれないワケで。


予想外の意味に戸惑う気持ちはあっても、後悔はしていなかったわたし。
もしかしたら…ココロの底では望んでいたのかもしれなかった…



(でも… あぁ、どうしよう…

 わたし、小五郎さんを誘惑しちゃったかも・・・)











2011/01/25
たまには誘惑しちゃえばいいと思う(笑)


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