栞の功名



――どうしたんだろう?――


小五郎さんが私の部屋を訪れて「ちょっと……」の一言のみで
佇んだまま、こちらをジッと眺めている。

な・なに? 用があるんじゃないのかな……
言いにくいような理由があって、機を伺っている……とか?
それとも全く別のなにかなのか。
サッパリわからない……


――もしかして……監視?――


なにか悪いコトでもしちゃったのかもと思い付き、
私は机に向かったまま、心当たりを探る……
がしかし、どうにもこうにも見当たらなかった。

分らないのだから聞くしかないかと諦めて、
恐る恐る…彼に問うてみることにした。


『あ、あの・・・小五郎さん?』

「ん?」

『なにか私に御用があるのでは?』

「ああ、そうだったね。黙ったままでは失礼か…不安にさせてしまったかな?」


そう言う彼はニコニコ笑顔で明るくて、すこぶる機嫌が良いように見えた。
何が彼をこんな風にさせたのだろうか。
喜怒哀楽を大っぴらに見せない彼がここまで喜びを露にするなんて、
珍しいことがあるもんだ・・・
私は驚き半分嬉しさ半分な心境で、
どちらにせよ叱られるわけではなさそうなので安心もしていた。


『い、いえ……大丈夫ですけど。どうかしたんですか?』

「そうだね。せっかくの申し出だ、早速あれを頼もうかな……?」


独り言のような、問いかけのようなことを呟いて、私を見下ろす小五郎さん。
少し身体を傾けて壁に背を預けながら、ちょっと小首を傾げる仕草が妙に色っぽい。

(やだなぁ…わたし、昼間っから何考えてるんだろう……)

ふるふると頭を振って煩悩を弾き出し、改めて見上げた彼に問いかけた。


『あれって何のことですか?』

「ふふっ、これだよ」


小五郎さんが胸元から出したのは、小さな薄いピンクの紙切れだった。
その栞サイズの色紙には、どこか見覚えがあるような、ないような・・・


『???』

「おやおや、忘れちゃったのかい?これは君が私宛に書いたものだと思ったのだけど……違ったかな?」


そう言ってヒラリとめくって見せるそれには、見覚えのある字が書かれていた。


『………あっ!!』

――あ、あ、あーーーっ!!――


私は心の中で絶叫していた。
いかにも使ってなさそうな辞書だったし、絶対に見つからないと思ってたのにっ!
見つかってる!!しかも差出人までバレてるよ……っ


――っていうか何で真っ先に私なの?
  もっと他の可能性も考えようよっ 小五郎さん!――

――嬉しいけど……でもやっぱり嬉しくない!
こんなに恥ずかしいものだとは思わなかったよぉ〜っ!!――



私は先程の小五郎さんの言葉を借りて、「ちょっと……」と言って立ち上がり、
そそくさと部屋を抜け出すことを心に決めた。
きょとんとしている彼の横を、何食わぬ顔で通り過ぎようとした時……ふいに何かに躓いた。

『え? あっ……』

足を取られた私を支えながら、彼が言う。

「こらこら、逃げないで?」

不思議に思ってよくよく見ると、
小五郎さんの刀身が私の行く先を遮っていたのだ。

――ええぇ!?――

有り得ない・・・
小五郎さんが通せんぼするなんて!しかも刀でっ…
いいの!?そんなことに使っても……いいもんなの??


ここにきて改めて、いつもの小五郎さんとは違い過ぎることに気付く。

――どどどどうしちゃったの一体……!――


「まぁとにかく座って?」

まるで部屋の主であるかのように、平然と言う彼に逆らえるわけもなく……
私は大人しく従って、向き合うようにして座った。
これから始まる会話の中で、私はどれくらいまでなら
恥ずかしさに耐えられるだろうか。


そんなことを考えていたら、彼がいきなり核心を突いてきた……

でも、小五郎さんががこんなに喜んでいる姿を見られるのなら、
恥ずかしいとか言ってないで、素直に認めるのも悪くないかなと思った。





「ところでこれは、麻琴からの恋文だと解釈して構わないのかな?」

『……そうですよ? そのまんま、書いてある通りの意味…です』

「追伸にある花が好きだというのは、花の色が着物に映えるから?それとも私が……」

『後者です!!もうっ!小五郎さんに似合うと思ったから……小五郎さんのことが好きだからに決まってるじゃないですかっ!』

「……怒ってるのかい?」

『怒ってませんっ!これは照れてるんですっ!小五郎さんが分りきったこと聞くから……もぅ〜 ものスゴく恥ずかしいです……』

「それはそれは、失礼いたしました……ふふふっ」


おそらく私は赤面してるだろうと思う。だけど・・・


『なんで笑うんですか??』

「さて、何故だろうね?」










2011/01/20
桂さんstory「隠された恋文」のその後…でした(*^-^*)
少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

ガチンコ様へ
過去に踏んだキリ番でのリクエスト、しかも桂さんStory!
どうもありがとうございました!!楽しかったです〜(●´艸`)



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