夏夕空 [1/5]

吹き抜ける風が香り立つ。

舞い上がった瑞々しい若草が、あの高い空へ吸い込まれるような、爽やかで鼻を通る匂い――


この風に乗って僕の思いが君に届けばいいのに……そんなことを思いながら河原を歩く。君と出会ったこの場所に、こうして意味もなく暇を見つけては訪れる。また君に会えると思うから。


――きっとまた会えるよね?

僕は知ってるよ。貴女がこの季節を好きなこと――


だからきっと……必ず……君は再び訪れるだろう。
聞き慣れない鼻歌を口ずさみ、子供みたいに楽しそうに花飾りを作っていた可愛らしい君。花より団子と周囲に言われるこの僕が、見惚れてしまうような真っ直ぐな瞳を輝かせて、こんにちはと微笑んだ――

忘れない……忘れられない……僕の素性を知ってからも恐がることなく話し掛けてきて、少し風変わりな君だったけど、会う度に心惹かれていったんだ。くるくると表情を変える君と、他愛のない会話を楽しんで、甘味友達の名の下に歩き回ったあの日の夕暮れ……何もかもがひと夏の思い出と消してしまうには惜しくって――


だけど、また会う約束を交わせなかったのは何故だろう?
また会いたいと言えなかったのは、どうして?

(土方さんにでも聞いてみようかな・・・)

たった半月、顔を見れなかっただけで妙に胸がざわめいて、気分が荒む。君の身に何かあったのではと心配になる。余計なお世話かもしれないけどね――



夏の香りを胸いっぱいに吸い込んで、耳を澄まして目を瞑る。忍び寄るのは茜色の夕空と、夏の終わりを告げるような、涼やかな空気……

ふと思う。こんなにも季節を肌に感じたことが、今までにあったかなって。


瞼の裏に映るのは、紅く染まった君の笑顔――


貴女を思うだけでほら、僕の心は夏色に染まる……

なんて、愛を語る僕なんて変だよね。くすっと笑って目を開けた。


君といるのは楽しくて、君といるのは面白い。驚いたり、照れくさくなったりしながら……いつもの愛想笑いではなく、心のままに笑い合えるんだよね。君と一緒にいる時は――


だから再び君と一緒に歩けたら、別れ際に君のことが好きだって言ってみようかな。

この香り立つ夏夕空の下で――




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2011/08/01
24(呟き)に載せたミニSSに、深林人不知のしずさんがイメージイラストを描いて下さいました♪
憧れの挿絵付き小説に大興奮☆しずさんありがとうございますー!!! 幸せ(*´ω`*)



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