昔々の物語 [1/3]
とある田舎の小さな国に、
長く子宝に恵まれない王と王妃がおりました。
先だってようやく願いが叶い、可愛らしい女の子が生まれた時、
国中が大喜びし、城下の街はお祭り騒ぎの日々でした。
王女のお披露目パーティーには妖精達が呼ばれるのが習わしです。
その日お城には国中から沢山の人が集まって王女の誕生を祝いました。
そうして締めくくりに、生まれたばかりの小さな姫に、
3人の妖精達から一つずつ、贈り物が授けられることとなったのです。
青の妖精「この度はお招き頂き光栄です。そして王様、王妃様、王女様の誕生を心よりお祝い申し上げます。」
緑の妖精「王女様の健やかなる成長を祈って、俺達から贈り物があるッス!」
赤の妖精「大したもんじゃないが、まぁ受け取ってくれ」
青「これ イゾウ、言葉を慎みなさい」
赤「す、すみません先生」
緑「ダメだなぁ…イゾウくん」
赤「シンタっ おまえ…!」
青「止めないかっ イゾウ!」
やんややんやと賑やかな、三人のやり取りを微笑ましく見つめながら…
王妃は王女を優しく胸に抱き寄せました。
大人しく眠っている、腕の中の小さな姫は、
生まれながらに長い睫と優しい瞳を兼ね備えており、
雪のように白い肌は、まるで低血圧な娘のそれのようでもありました。
しばらくして贈り物の内容と、それを贈る順番を取り決めた妖精達は、
一人ずつ王女の側に跪き、ゆっくりと語りかけました。
青「王女様は心根の優しい娘に育つでしょう。民を想い、家族を思い、自然を慈しみ、気立ての良い、大らかな優しさを貴女に…」
妖精の手から放たれる青白い光の粉粒が、サラサラと王女の髪に降り掛かり…薔薇のカタチを象りながら次第に消えゆく一瞬に、王女が僅かに微笑んでいました。
赤「俺からは先生のような“知”を贈ろう。おまえはきっと、賢くて徳のある女になる」
そう言い終わると妖精の掌にメラメラと揺れ動く暖かな光の玉が表れて、赤の妖精が王女の身体にそれを置くと、まるで泉に沈むようにして消えてゆきました。
緑「さて、最後は俺ッスね! 俺からは…」
緑の妖精が言いかけた時、突如として室内が暗闇に包まれて、あたりは騒然となりました。
王様は側に控えている家来に問いかけますが、返事がありません。いつの間にか護衛は消え、部屋には暗雲が立ちこめていたのでした。
緑「こ、これはっ!!」
青「まさか…!」
赤「アイツの仕業か!?」
稲妻のような光が発せられた直後に雷鳴が響き渡り、
僅かな明りが灯って、重苦しい色合いの靄が薄れると…三人の妖精の前に一人の男が立っていました。
青「貴様は…っ!」
緑「黒の妖精…」
赤「何をしにきた リョーマ!」
黒の妖精「おりゃおりゃ…皆さんお揃いで。随分と久方ぶりじゃのぅ、タケチ?」
青「白々しい…お前に会えても嬉しくない」
黒「つれないのぅ〜 わしとお前の仲ではないか」
青「誤解を招くような言い方をするな!いったい何をしに来たんだっ」
黒「なにって、そりゃあ〜…王女さんを祝いに来たに決まっておろうが」
緑「でもリョーマさんは招待されてないんじゃ…」
赤「おい、アイツを"さん"付けして呼ぶな!」
緑「ご、ごめん…」
黒「なんじゃ、敬ってくれて構わんぞ?何しろわしは偉大なる闇の魔術を扱う妖精だからのぅ〜♪」
青「それ故に追放されたのを忘れたのか!のこのこ表に出てくるな、この恥知らずがっ!!」
黒「わかっとらんの〜 タケチは。相変わらず頭が固くていかん…」
赤「先生を侮辱するなリョーマ!」
黒「まぁ、そんな事はどうでも良い。わしは王女さんに贈り物をしに来ただけじゃ。それぐらい構わんだろう…すぐ済むて」
赤「やめろっ…!」
青「余計な真似をするなリョーマ!」
緑「リョーマさん、一体なにをっ…」
三人の静止に拘わらず、またしても強い閃光に包まれて消えゆく中で…
先程とは打って変わった低い声をうねるように響かせながら黒の妖精が叫びました。
黒「王女は美しく健やかに育つじゃろう。そして18歳になった時、糸車の針に刺されて…死ぬ!!」
しししし…という笑い声が遠のくと、辺りはもとの明るさを取り戻しました。
消えた護衛も姿を現し、不思議そうな顔で王と王妃を見つめています。
そこには絶望のあまり声も出ない、蒼白な顔に涙を浮かべる王と王妃の姿があったからです。
三人の妖精はその様子に居たたまれない思いで一杯です。
どうにか王女を救いたい。けれどもリョーマの魔力は強過ぎて、打ち消すことは叶わない。
それは三人共よく解っていました・・・
青(だが、修正できないわけじゃない。まだ緑の妖精からの贈り物が残っている…!)
出生時の“ギフト”は一人一つまで。
この法則だけは黒の妖精にも変えることはできません。
赤青緑(まだ勝機はある…!)
そう考えた三人の妖精は、王女様の助かる道を探して…必死に考えを巡らせました。
2011/01/20
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