包んだ言い訳 [3/26]



「ふふっ……」


柄にもなく一人笑いを零してしまったのを、
誰かに見られまいと気を引き締めたところで、
私の足取りは心なしか浮き足立つかのように不安定で、早かった。

だからといって、決して逃げ腰になっている訳ではない。
寧ろ今の私は強気で積極的だと言える……
何しろこれから意中の女性に贈り物をしようと言うのだからね。


「何年振りだろう…」

(こんなに気持ちが浮ついたのは、幼い頃に父母の元を離れて以来か…?)


あの時は不安と期待に揺れていたが、今の自分も正にそれだ。
そんな子供じみた行動を今になっても引き起こしているのかと思うと恥じる気持ちが膨らんで、幾らか冷静になれた……


それでも微かな期待を宿らせて、私は彼女の部屋を目指す。
懐に忍ばせた、小さな包みを手渡したいがために……









『あ!龍馬さん……!』


「久しぶりじゃのぅ沙織さん、元気にしちょるか?」


『はい!お陰様で…とても元気です!』


「ほうかほうか、にししっ…」


所用で藩邸に立ち寄ったと言う龍馬さんが、わたしの部屋に顔を出してくれていた。
おまけに美味しい差し入れ付きで…!


『ほれ、先日おまんが言うちょった「ほわいとでぇ」の品じゃ…ちぃとばかし見目は悪いが、気持ちは山ほど入っちょるき!』


『え…もしかしてコレ、龍馬さんの手作りなんですか!?』


「慣れんことして台所を荒らしてな、女将に叱られてしまったぜよ…じゃが、なかなか料理も楽しいのう」


そう言ってお日様のように笑う龍馬さんを見てると、こっちまで笑顔になっちゃう…

受け取った包みから現れたビスケットが手作りと知って驚きつつ、お礼を言って…さっそく一口かじってみる。


『わ、甘ぁい…』

「おぉ、すまん!甘過ぎたか…!?」


『いえ、スゴく美味しいです!わたし、甘いもの大好きなので…!』


「ほうか、ほうか。沙織さんは甘いもんが好物か……しかし、おまんが好きなんは甘い物だけかのう?」


『え……?』


思わぬ問い掛けにわたしが固まっていると、ゴホンと咳払いが一つ聞こえた。
どうやらそれは龍馬さんから発せられたものではなくて……

不思議に思って龍馬さんと顔を見合わせていると、襖の方から声がかかった。









「沙織さん、ちょっといいかな?」


来客中にすまないね…、そう言って私は彼女の部屋に顔を出した。
その瞬間に目にした光景と、先ほど図らずも聞きかじってしまった二人の会話から、状況は容易に推察できる……

そのせいで、努めて普段通りを装う私の心中は、穏やかさからかけ離れていた。


「実は今日は女手が少なくてね…沙織さんの料理の腕前を見込んで頼みたいことがあるらしいんだ。少しだけ協力してきてもらえるかな?」


『え!?は、はい!わたしに出来ることなら喜んで…!』


お話の途中ですみません、と坂本君に詫びをして足早に部屋を去る後ろ姿を見送りながら、ホッと小さく溜め息をつく。

それを見逃す筈の無かった彼が、独り言のように口をつく……


「まさか桂さんがそげなことをする男じゃったとは思わなかったぜよ…ワシの作ったビスカウトが余程に気に食わないのかのう〜…」


「なにを仰いますか、私は急ぎの用件を伝えに来たまでですよ」


「この藩邸内で、桂さんに気安く頼み事を出来る人間が…本当におるんかいのう?」


「……………」


「さてと、ワシの用事はもう済んだ。そろそろ帰るぜよ…!」


そう言って立ち上がった彼に合わせて私も腰を上げ、無言のまま見送る形で廊下に出た…
すると、相変わらず機嫌の良さそうな坂本君が、去り際に振り返って言い残す。


「桂さんには悪いが、どうやら一番乗りはワシだったようじゃのう」


憎めない笑顔の持ち主が立ち去ると、振り返った部屋に残る菓子の食べかけを見つめながら…
今度は盛大に溜め息をついた。

(はぁ……私は何をやっているんだ?)

順序など関係ない。大したことではないのだと…言い聞かせる度に胸が疼く。

どうやら私は誰よりも早く彼女に“ほわいとでぇ"を返すことを前提に、心を弾ませていたらしい……

沈んだ気持ちが黒く陰るのを持て余し、それらを拭い去るように私は現実問題と向き合う。

(早く調理場に行って取り繕わなければ……)


その場しのぎの浅はかで卑劣な…嫉妬まがいの行動には自分でも驚く程で、心底嫌気が差すがそうも言ってられない。

(何しろ敵が多いからね……)

「困ったものだよ、全く…」


用意していた包みを出して部屋の文机に乗せると、床に広がったままの菓子をしばし眺めたのちに拾い上げ…
丁寧に包んでから懐に仕舞った。



それを沙織さんが知ったらどう思うだろかという不安と共に、
これで彼女が私を訪ねる口実が出来る。と期待する自分が、いた……









2011/03/19
15000HITキリリクで、『娘さんに贈り物しようとしたのに、誰かに先を越されてヤキモチな桂さん』でした☆
“贈り物”ということでホワイトデーと絡めてみたのですが、甘くない…orz
おまけに龍馬さん登場で土佐弁と苦闘!間違ってたらスミマセン(^^;) 予想以上に小五郎さんが黒くなってしまいましたが大丈夫でしょうか…(不安)
水無月翡翠さんに捧げます(>_<) 訪問&リクエストありがとうございました!




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