貯古齢糖 [10/26]

このお話は、幕恋(グ○ー)のバレンタインイベントで提供された、特別話「チョコレートは長崎から」の第一部(無料)を前提にしたオリジナルストーリーです。
ネタバレを含みますが、特別話を未読の方には少し分かりにくい内容になっております。













「貯古齢糖は龍馬さんから」



寺田屋のみんなが帰ったあと、桂さんと高杉さんは二人だけで話し合いをしているようだった。
なにか大きな仕事を巡って、みんな色々なことを頑張っているみたい…

自分の部屋に戻った私は、机の前で考えごとをしていた。

手には一片のチョコレート…
帰りがけに龍馬さんが余った最後の一かけらを私にくれたのだ。


(これって逆チョコになるのかな…?
みんなと一緒に食べたやつで十分なのに…
気を使ってくれたのかな?私がバレンタインの話をしたから…)


龍馬さんから貰ったものだけど、これは普通の差し入れと受け止めて…
私は手の内のチョコレートを材料とみなすことにした。


(龍馬さん、ごめんなさい…!使わせてもらいます)


心の中で謝罪して、再び調理場に向かった。


(あそこに常備してあるお饅頭…二人にあげるって言えば譲ってもらえるよね?)


これは賭けだった。
本当はお饅頭も一から作りたいんだけど…
中身の餡作りに時間がかかりそうだし、人に聞くことができないレシピだから…それは難しい。
何しろ私が目指すのは、世にも珍しい貯古齢糖を使った
この時代の人にとっては珍味になるかもしれない和菓子…

多少の不安はあるけれど、わずかな知識と勘を頼りに…
私は作ってみようと決意した。
だって今日は、年に一度のバレンタインデーだもの…頑張らなくっちゃ!


(美味しいと思う味覚だけは、いつの時代も同じだといいなぁ…
その前に上手く作れるかどうかわからないけど…)




調理場で、私は黒いペーストと格闘していた。

泡立て器が無いから、こし器をフル活用して混ぜ合わせる…
その材料は卵黄と小麦粉、砂糖は高いから控えめに。
それから和菓子に合わせて黒蜜と、発酵させた焼酎…これ多分みりん?を加えてみたりした。
湯煎で溶かしたチョコレートを混ぜ合わせたら…それはもう真っ黒なドロドロに!


(この貯古齢糖、現代のチョコとは少し成分が違うみたい…なんかやりにくいなぁ)


混ぜ合わせる割合を適当に変えながら…
少しずつ、少しずつ、私は目指すカタチに近づけていった。





――それから半刻(1時間後)――




『失礼します。あの、お茶をお持ちしました…』


「おっ!沙織か、入れ入れ!」


威勢のいい高杉さんの声に誘われて、私はズズイと二人の前に歩み寄った。
盆の上には緑茶と小さなお饅頭がセットになって二組のせてあり、
それらをそれぞれ一つずつ、二人の前に差し出した。

(こういう動作って意外と緊張するかも…)

『お疲れさまです、どうぞ…』


「ありがとう、沙織さん。わざわざすまないね…」


「なんだ?また菓子も付いているな」


『あ、はい。小さく作ったので夕飯には支障ないかと思いまして…』


「ということは、これも沙織さんが作ったのかい?」


『そうですね、半分は私が……市販のものに少し手を加えたんです』


「今日は甘味尽くしだな!沙織は菓子職人にでもなるつもりなのか!?」

ワハハと楽しそうに笑いながら高杉さんがお饅頭を一口かじる。
私は内心とてもドキドキしながら、そんな高杉さんと桂さんの、二人と話をしていた。


『今日は特別ですよ、バレンタインですから…』


それとなく桂さんを見ると、湯のみを置いて和菓子の乗った皿に手をかけるところだった。
楊枝をつけなかったので、桂さんもきっと手づかみで食べてくれる……

あえてそうしたのは、お上品に半分にカットして食べたりされたら困るから。
今回はどうしても、中身が見えないような食べ方をして欲しかった…


「この饅頭、旨いなぁ〜…餡に胡麻が入ってないか?」


『そうみたいですね。高杉さんの好きなあの甘味屋さんの、今月出たばかりの新作だそうです』


「ほぉ、さすが俺様が目をつけただけのことはあるな…なかなかの味だ! なぁ、小五郎?」


「……え?」


一口かじった桂さんは、ちょっぴり不思議そうな顔をして、お饅頭を見つめていた。
私はそんな彼と目が合うと、ニコリと笑って話かけた。


『どうですか?桂さんの口には合いませんか…?』


「いや……美味しいよ。変わった味で驚いた…」


「そこまで言うか? 大袈裟な奴だな〜胡麻くらいで」




――私は知ってる――




桂さんは、こういう時は決まって空気を読んで機転を利かせてくれる人だということを。

余計なことは話さないし、聞かない……
そういう優しさを、常に持ち合わせている余裕のある人だと思う。




「そうだね、少し大仰だったかな。
でも私もこの饅頭を売る店を贔屓にしたくなったよ」



(ほらね?)


そして彼は、ニコニコしながら食べたあと、
私に向かってこう言ってくれた。


「沙織さん、ありがとう。とても美味しいお茶だった…
またいつか機会があれば、もう一度この味を堪能したいよ」




高杉さんは「なにを言っているんだ、いつだって食えるだろ」って笑ってたけど、
私と桂さんは「そうだね」『そうですね』って、
きっと、別の意味で笑ってた……





一人の時に、面と向かって渡す勇気がなくて、
和やかな三人での雰囲気に便乗する形になっちゃったけど…


それでも本命チョコが渡せて良かった。




どうやら気に入ってもらえたみたいだし、忘れない内に分量をメモしておこう…


レシピ名は多分こう……

沙織特製「チョコクリーム饅頭」!!






2011/02/14
バレンタインstoryその2は桂さん♪
みなさんはチョコレート渡せましたか(●´艸`)?




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