side フェルディナンド
「フェルディーノ様! どういうことですか? いつの間に、何があったのですか? お二人のご関係を是非ともお教えいただきたい!」
ローゼマリンと三人が退室し、ユストクスと二人きりになるとすぐにヤツは私に向かって捲し立てた。相変わらずの情報狂いである。
「落ち着け。まったく、其方は……」
はぁ、と溜め息を吐きつつも、話して聞かせるしかないのかと諦める。興奮するなといっても無理なのであろうことは明らかであった。
私が冷静に指示すると、普段通りに手早くお茶を用意しつつ聞き取りの体勢を万全に整えて目を輝かせていた。若干気持ち悪い。
呆れたようすを隠すことなく不機嫌なまま茶で喉を潤し、盗聴防止の魔術具を起動した。
「それで? 何が知りたいのだ?」
「もちろん全てです!! と言いたいところですが……まずはローゼマリン様についてを是非とも詳細に。フェルディーノ様とはどういったご関係にあたるのでしょう」
私の些細な変化も見逃すまいと、食い入るように見つめて答えを待つユストクス。
昔を思い返す私はどこか遠くを見つめるように、空を眺めて考えこんでいたであろう。
「私と彼女の関係か。今は何とも言えないが、そうだな……昔は色々な一面があったな。その中で、私にとって最も重要な立場は家族≠ナあろう。私は彼女の伴侶であり、師匠であり、庇護者でもあったのだが……要約すると生きていく上で無くてはならない存在だ」
[[rb:然 > さ]]しもの彼も、あまりにも予想外の答えに驚愕を隠せないようだった。
「フッ。さすがの其方も予想外だろうが……私と彼女には、この世に生まれる前、前世と呼ばれる前の世で一度生きて死んだ。その記憶があるのだ。その前世では、私と彼女は神々の手によって星を結ばれた特別な夫婦であった。そして、私にとって彼女は全ての女神であったのだ。名を捧げ、共に高みに登り、こうして生まれ変わったらしい今の世で再び出会い、やはり私には彼女しか考えられぬので求婚した。今は返答待ちのような状態だな。彼女としては、前世の記憶に縛られず、私に自由に生きて欲しいらしい……」
淡々と語るも、どこかしんみりとした空気が漂う。溢れる想いが滲んで零れるようだった。
「前世の記憶ですか……俄かには信じ難い現象ですが、フェルディーノ様に全ての女神≠ニ言わしめる存在があったことが一番の驚きですね。何というか、想像もつかない存在です。それがローゼマリン様なのですね?」
「そうだ。彼女は……前の時もそうであったが、生い立ちが複雑でな。前は、平民から青色巫女になり、神殿育ちの上級貴族として洗礼を受け、領主の養女となった。そして王命で死地へと向かった私を援助し続け、私が窮地に陥ると私の命を助けるためだけに、他領をも巻き込んで礎を奪い、十三歳にして大領地のアウブとなったのだ。その後の治世ではもちろん私も伴侶として全力で補佐に努めたが、神々からの横槍もあり、なにかと苦難は多く、彼女が本当に幸せであったかどうかは疑わしい。虚弱な身を守るためにと様々な制限をかけ、アウブらしくあるためにと随分と負担を強いたと思う。規格外の思考回路ゆえに破天荒を巻き起こしてばかりだったが、争いを好まぬ彼女の望みはいつも平穏だった……私は今世では彼女の望みを叶えてやりたい。私を含む他者の思惑に振り回されることなく自由に生きて欲しいと願っているが、私から離れることだけは受け入れられぬのだ。だから、彼女がこの先どのような進路を選ぼうと、私は彼女について行くと決めている。誰にも邪魔はさせないし、その為に必要ならば、どれだけ常識に外れようとも、非情なことであろうとも、躊躇うことなく実行するだろうな」
私は強い意思を持って目の前の男を見つめる。邪魔をする者は許さない、容赦なく切り捨て、排除する。そんな思いを込めて。
もしかしたら厳しく睨んでいたかもしれぬ。
ゴクリと息を飲む音がして。恭順の姿勢をとるユストクスから聞こえた返答は、なぜか歓喜に震えていたのだった。意味が分からぬ。