理不尽な叱責と処罰

 フェルディナンドは怒りに身を焼かれる思いで滑空して素早く地面に降りた。
 頭の一部が冷静になれと囁くが、そんなことは些末事としか思えない。

 護衛の騎士が護衛対象に刃物を向けていた。

 ――あの者は彼女を傷付けようとした。
 ――私のものに手を出したのだ。

 それが事実ではないかと、冷静な頭で判断しているつもりだが、魔力は膨れ上がるばかりである。つまり冷静になりきれていないのだろう……判断を誤る可能性がある。

 ――頭を冷やさねば。
 ――必要ない。
 ――落ち着け。
 ――なぜ落ち着いていられようか。彼女は私の……

 自問自答をしながら歩いているうちに、二人の騎士を前にしていた。私の魔力に当てられて青ざめ、苦しそうに蹲っている。

 ――自業自得だな。

 シキコーザの憎しみに満ちた目がその証拠。あれは彼女の敵である。

 ――それならば排除しなくては。

 静かに、努めて品のある動作を心がけ、対象を一人に絞って魔力を放つ。
 この程度の者などシュタープを使うまでもない。
 私は消滅したシキコーザの立っていた場所を無感動に見下ろしていた。

 振り返るとローゼマインが恐ろしい獣に会ったかのような怯えた目をしてガタガタと震えながらへたり込み、フランにしがみ付いている。
 可哀想に。余程怖い目に合わされたのであろう……彼女を安心させるべく声をかける。

「ローゼマイン、シキコーザは殉職した。効力の高すぎたお守りの反動から君を庇うため、身を投じて任務を全うしたのだ」

 フェルディナンドはにやりと黒い笑みを浮かべていた。





2020年10月29日
怖いのはお前だ、フェルディナンド!
マジで魔王な展開になり、ダームエルは余波で再起不能になってしまい。。
ローゼマインに恐怖を植え付け、話が終わってしまうのでボツになりました(^^;;
彼を冷静にさせるのに苦労したという「トロンベの討伐」関係の没ネタの一つです。



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