side フェルディナンド
それから数日後――
恋人たちの逢瀬の場として使われるはずの東屋で、密やかに会合を重ねる少年少女の姿があった。
彼女のことだ、別に大して期待していたわけではないが……やはり恋人同士が忍んで会う場所として名高いこの場所で、このように色気のカケラもない箱庭関連の殺伐とした話や魔術具やレシピなどの商談の打ち合わせをするのはいかがなものかと考えてしまう。
求婚している相手に対してこの態度……まるで自分が男として対象外であるかのように感じられ、非常に面白くないと感じるのも致し方なかろう。
私がどれだけ彼女を欲しているか、知らぬ彼女ではあるまいに。どうしてこうも危機感がなく、無防備なのか……相変わらずの様子に頭が痛い。私は今世でもこうして彼女に振り回される運命にあるのだろうか。それはそれで楽しいと言えなくもないが……仮にも婚約者候補と呼べる間柄なのだから、もう少しそれらしい雰囲気を出して欲しいというものだ。
いっそのこと外聞を気にせず、夫婦だった時と同じように対応するべきか?
貴族として非常識と言われる程あからさまにしない限り、距離感の近い彼女にいくら訴えたとしたとしても通じないのではないか?
異性として意識してもらうには、やはり直截的な物言いをするしかないのだろうか。そうすると結果として外堀を埋める形で彼女を囲い込むことになるわけだが……もちろん私は全く構わない。だが、ローゼマリンはどうなのだろうか。まだ私と星を結ぶつもりにはなれないのだろうか。
私は一体どうすれば彼女の心を掴めるのだろう。そもそも、どうして彼女の気持ちは離れてしまったのだろう――
今世の彼女が求めることは、前と同じく私の幸せだと彼女は述べる。それでいて私に、彼女と供にいない道を選ぶのも良いではないかと勧めてくるのだ。
私には彼女しか考えられぬというのに、それは前世からの思い込みだと指摘する。そうではないと私は感じているのだが、それを証明する術がない――
私は変わらずに彼女を愛していると思う。ローゼマリンを必要としていると思う。
だがそれは、確かに前の記憶があってこそのことだとも言える。しかし、私がそうであるように、前世のローゼマインあっての彼女なのだから、私が今の彼女に惹かれて何の不思議があるというのか。
それとも彼女は違うのだろうか。
過去は過去と割り切って、私とは別の道を歩みたいと願っているのだろうか。心の奥底では、私との婚姻を厭うていたのだろうか――やり直せるとしたら繰り返したくはないと思うほどに、不本意な婚姻だったのだろうか。成り行きに任せた末の不本意な生活だったのだろうか。
こうして再び私と関わりを持ったのも、ただ単に、懐かしさや愛着からか? 数少ない気のおけない間柄の貴族として、話し相手を求めているにすぎないのだろうか。
まるで大切な友人か、血の繋がった家族のように……大事にされているのは分かるだけに、これ以上を求めるのが欲深いように思われて難しい。踏み込んだことで避けられても困る。
かといって、このように生殺しの状態をいつまで続けることも苦しい。
未成年ゆえに成熟しきらない今の身体はなかなか制御が難しく、衝動を抑えるのも一苦労なのだ。
やはり彼女には危機感を植え付けるべきだろう。私だからまだ良いが、他の男の前でもこのように呑気にしてもらっては困る。彼女には早急にシュツェーリアの盾を会得してもらわねばならないだろう。
「フェルディーノ様? 随分と難しいお顔をされてますけれど、なにか悩み事ですか?」
君のことを考えていたのだと、言っても伝わらないのだろうな――
「少し、難しい問題について考えていた。そうだな、たまには君に相談してみるのも良いかもしれぬ」
「私でお役に立てられることでしたらなんなりと」
ローゼマリンがにっこりと微笑んでこちらを窺っている。
随分と貴族らしくなったと思うと同時に寂しいと感じてしまう。周囲に側近が待機しているとはいえ、二人きりの時くらい、その素顔を見せて欲しいと思う。
それすら叶わない今のこの状況下で、彼女の本心を聞き出せるだろうか――
「……ローゼマリン」
「はい。なんでしょう?」
「今の君の、ゲドゥルリーヒを教えて欲しい……」