輪廻転生の始まり


あっ!

っと思った時には体が動き出していたのだ。




その結果、自分がどうなるかなんて考えてなくて。


ただただ目の前で起きたことをどうにかしなくては、

という反射的な思考しかなくて。




やたらとスローモーションで映る景色を横目にしながら、

必死に腕を伸ばしていたのだった。








気がつくと真っ白な世界にぽつんと一人で立っていた。

「あれ、わたし……?」

ぼんやりした頭で、どうしたんだっけかと考えていると……
目の前に突如としてボーリング球くらいの大きさをした光の玉が現れる。

驚いて見つめるも、熱くはなくてホッとする。

「何かしら、これ」

どことなく陽だまりのような温かさを感じる光の玉は、
淡く輝きながら大きく膨らみ、やがて人型へとなっていくのだった。


『汝の今際の行いは徳と見做された。ならば与えられん。次なる世界を求めよ』


厳かな声が響き渡り、わたしはそこで初めて、自分が車に轢かれそうになった子供を助けようとして死んだことを自覚したのだった。







「では、あの子は助かったのですね……」

よかった、と息を吐いていると再び重厚な声が白い世界に響く。

『汝の望みは叶えられん。望め。己が求むがままに』

「ありがとうございます。あなたは神様かお釈迦様でしょうか……きっと輪廻転生のお導きなのでしょうね」


わたしは、若くして死んでしまった事実と残してきた家族のことを思い出し、真っ先に浮かんだ望みを口にする。


「次は……もっと強く生まれたいです。自分や大切な人をしっかりと守れるように」








心からの願いを告げた途端、辺りは急速に窄まるようになり、
白い世界が閉じられていくのを肌で感じながら……

走馬灯のように今までの人生を思い出し、
次こそはきっと、後悔のない人生を送ろうと決意するのだった。








あれから三年――

わたしは十八歳くらいになっていた。




あのあと赤子に戻って人の世を生き直すのかと思いきや、何故かわたしは十五歳くらいの身体になって次なる世界(あきらかに地球とは違う)に存在していた。

見た目も変わって、黒髪なのは変わらずだが、目が金色になっていた。ついでに言うと目鼻立ちハッキリした外国人顔だ。普通に美人だとは思うけど、違和感が凄い。

まるで別人の誰かに憑依したかのような始まりだったけれど、不思議とその世界で幼少期から育ってきた記憶は前世と同じようにしっかりと刻まれていた。

神様の計らいで人生を早送りしたのかもしれない。
あるいは、何かの手違いで前世の記憶を思い出してしまったのかもしれなかった。感覚としてはそちらに近い。

それからもう一つ転生前と大きな違いがあって……今世のわたしは魔法使いであるようなのだ。更には身体能力がエグいくらいに高くなっており、まるで重力を無視せんばかりの怪力の持ち主でもある。

願い通り、色んな意味で強く≠ネっていたのである。




物心ついたときには孤児だったわたしは、幼い頃からずっと劣悪な環境で働き続けていた。力だけはあったので当然仕事は肉体労働だ。低い賃金で、汚い環境で、長時間働く。帰ったら食べて寝るだけの生活。

そんな生きるために必要な最低限のことしか知らなかったうちに迎えた衝撃の日。

一気に流れ込んだ知識によって、わたしは変わった。
そこから三年かけて今世の常識を学び(最初は読み書きもできなっかた)、世界の広さを学び(なんと全国共通の言語だった)、魔法を使って蓄えを増やしては準備をし、好きなことを好きなだけするのに必要なアイテム『ハンターライセンス』を取得するために動き出したのだった。


この時代は何かと物騒な世の中で、普通に歩いているだけでも揉め事がよく起こる。
世界的に見ても前の時よりずっと情勢は厳しいようだった。

最低ラインの基準が違えば最高ラインの基準も違う。
とてもとても不条理なこともまかり通る、正しさや公正さを貫くには様々な意味での力が必要な世界だった。

そんな世の中で自分らしく自由に生きるために、わたしはハンターになろうと思ったのである。




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