sideクラピカ

「実は……前にクラピカが20歳になったら正式に籍を入れようかって話したことがあったじゃない? あれ、ちょっと延期してもらうことになりそうなのです」

そう言って困ったような申し訳なさそうな顔をするナナミを見て、彼女も本意ではないのだと知り安堵する。やめたい≠ニ言われたのではなく延期≠ナある。無期延期でない限り問題はないだろうと思われた。
ただ、そうなる理由だけは知りたいが。

「理由を聞いても?」

「昨日ちょっと時間があって、自分の国民番号を調べてきたの。ついでに納税とかいろいろ手続きをして、知らなかった生年月日も調べてきた」

「判明したのか?」

「うん。7月7日生まれの設定だった」

「設定……」

「たぶん役所の人とかが見た目でそれぐらいだろうって月齢を判断して登録したんだと思う」

「そうか」

ナナミの生い立ちは聞いていたが、こうして捨てられた物みたいに扱われていたことを知るのは複雑な気分だった。

「それでね、年齢なんだけど……」

言い淀むということは思っていたのと違ったのだろう。
オレはナナミが何歳であっても気にしないが、女性であるナナミは気になるのかもしれなかった。

「……17歳だった」

「2年違ったのか」

「うん。7月で18歳になるから、クラピカとは1歳差だね」

「ナナミは私より歳下だったのだな」

「そうなの。だから入籍もわたしが20歳になるまでできない」

「そういうことか……1年延期になるわけだな」

「まぁ、女性の結婚可能年齢が若いところは多いから、別の国に行けば待つことなく入籍できると思うけど」

「いや、予定通りこの国の法令に従おう。成人してからというのは一つのけじめだしな」

「クラピカは待つのは平気?」

「大丈夫だ」

「それなら良かった」

ナナミは安堵したように笑った。いったい何を不安に思っていたのやら。

「クラピカはさ、わたしが歳下だったって分かってどんな気分?」

「私か? 悪くはない気分だが。ナナミはどうなのだ?」

「わたしはクラピカが歳上好きだったらどうしようって考えた」

オレは思わず笑ってしまった。全くもって余計な心配である。

「私はナナミのことを年齢で好きになったわけではない。ナナミだから好きになったのだよ」

「そうだよね……わたしも年齢で好きになったわけじゃないし。やっぱり大事なのは中身だよねぇ。あとは顔?」

聞き捨てならない言葉だった。










「顔もか?」

「え? 見た目ってけっこう重要じゃない? 清潔感とか服装とか。顔は性格が滲み出るって言うし、少なくとも生理的に受け付けられないって事例もあるわけだし。例えばヒソカとか、わたしは絶対に無理」

成程そう言われてしまえば納得せざるを得なかった。

「ナナミは私の顔をどう思っているのだ?」

気になるのはそこだった。

「クラピカの顔は普通に好きだよ?」

(普通に? 普通とは、特別ではないということか?)

何故だか少しショックだった。
これまで自分の顔貌に惹かれて近づいて来た者には反感を覚えることの方が多かったのに、ナナミには好みであると言われたかった。

ナナミはもっと男性的な顔の方が好みなのだろうか。
自分の女顔がますます嫌いになりそうだった。

「でも自分の顔はあんまり好きじゃないかな……金色の目とか、未だに違和感が凄くて……」

ナナミが自分の髪をいじりながら言う。ナナミは前世では黒髪に黒目の姿だったそうなので、黒以外だと落ち着かないのだろう。

では、金色の髪をしたオレのことはどう見えているのか。
顔といい、髪色といい、オレはことごとくナナミの好みから外れているらしい。思いがけない事実だった。
今更だが、ナナミはオレのどこを気に入ってくれたのだろう。


ナナミの黒髪や金色の目は、オレには好ましく映る。
夜空に浮かぶ月のようで……それこそ月の女神のようだなどと言っても差し障りないくらいにナナミは美しい人だ。
そんなナナミが暗闇に溶けてしまいそうに見える時、オレは無性に彼女に触れたくなる。触れると温かくて陽だまりのような存在感で、柔らかくて抱き心地が良くて――

と、そこまで考えて止めた。

(朝から何を考えてるんだオレは……)


だがナナミが口にした淋しくなって≠フ意味が、そういう意味でもあれば良いのにと思わずにはいられなかった。

求めるのはいつも自分からで、ナナミから求められたことは一度もない。そこが少し不満だった。ナナミからも求められたい。

単独で遠出をする予定を言われた時にも思ったが、ナナミはオレと遠く離れることも平気だ。オレのことを心配するくせに、自分から離れることは躊躇わない。
そのことで稀に不安になる。
指輪があるとはいえ、ナナミにはなるべく側にいて欲しい。
もっと必要とされたかった。





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