ボスとの対面
わたし達5人はあのあと無事に館を脱出した。
言っては悪いが楽勝だった。リストにある品物を探す方が時間がかかって大変だったかもしれない。
それでも1週間後に再集合した時には全員が課題をクリアーした。
なかなか皆んな優秀なのではないだろうか。
それともこれくらいプロハンターなら当然なのかな?
ハンター歴0年のわたしとクラピカは、この中で一番の若手だろう。
でも一番下ということは、あとは登るだけだ。経験値アップを目指して頑張りたい。
護衛団のリーダー、ダルツォルネが説明するには、わたし達の初任務はヨークシンまでのボスの護衛とのことだった。
リンゴーン空港まで35時間の旅。そのあとはホテルまで車を使うらしい。
わたし達新入りはフォーメーションの一番外側を囲む。
誰が、いつ、どこから、どんな方法で襲いかかってきてもボスを守るのが肝要で、敵を排除するのは二の次らしい。
まぁ、護衛なら片時も離れず守るのが優先だよねと納得する。
そうしてボスを紹介すると案内された部屋で、わたし達は護衛対象のボスことネオン=ノストラードに対面した。
「紹介しよう。諸君等がお護りする我々のボス、ネオン様だ」
ハンター専用サイトの情報で知った通りの、苦労知らずなお嬢様っぽい女の子だった。
「お前達、それぞれ自己紹介を」
「バショウです」
「ヴェーゼです」
「センリツです」
「クラピカです」
「ナナミです」
みんな名乗るだけなので、わたしもそれに倣っておく。
だがしかし、やけに見つめられているような……?
「ナナミは何歳なの?」
ボスから声をかけられる。
「19になります(たぶん)」
「やっぱり! 同じくらいだと思ったんだー! やったー。同い年の女の子って初めてー!」
遊ぼう遊ぼうと引っ張られ、困惑するしかないわたしだった。
ダルツォルネから無言で従うように示されて、ボスの部屋に残されたわたし。侍女としているらしい女の人達が助けてくれることもない。
わたしはひたすらボスの質問攻めに答えていた――
深夜1時。
ようやく解放されたわたしは自室となる部屋がどこになるのか分からなかったため、とりあえずクラピカのところに向かうことにした。
こんな時にも指輪は便利だった。
コンコン――
軽くノックをするとすぐに扉が開かれる。
相手を確認する間も無く開けることが出来たのも指輪のおかげだろう。
「おかえり。随分とかかったな」
「ただいま〜。クラピカ、わたしの部屋ってどこか知ってる?」
おかえりと言われて嬉しくなる。
気がついたら部屋の中に入ってしまっていた。
「ナナミの部屋はここだ」
「え? クラピカと同室なの?」
「嫌なのか?」
「いや嬉しいけど。てっきり男女で別れてると思ったから……」
「二人一部屋だと部屋数が足りないというので私がリーダーに提案した」
「なんて?」
「私とナナミは婚約者同士で、事実婚状態だから同室で問題ないと話した」
「婚約者同士だったの? わたし達?」
「この国ではまだ未成年だからな……事実婚になるのは仕方がない」
「……クラピカはわたしと結婚するの?」
「そのつもりだが?」
なにを当たり前のことを?と言わんばかりの表情に驚く。
クラピカは時々とても大事な言葉が足りないと思う。
「いつ決まったの?」
「……ナナミを貰い受けた時ではないか?」
視線を逸らしてクラピカがわたしに訴える。
そんな照れた可愛い顔で、化石のように古風なことを言わない欲しい――と言ったら怒るだろうか。
クルタ族の間ではそれが当たり前なのだろうか。結婚相手としかシないのかな。合意のSEXがイコールで婚約になるのだろうか。
結果的に言えば嬉しいけれど。教えてもらってないよクラピカ?いや、言われても断らなかったとは思うけれど。
やはり一つ問題がある。
『わたし プロポーズ される ない』
クラピカに教わったクルタ語で話しかけた。
はっとなったクラピカがわたしの手を握って微笑みかける。
『オレと結婚して欲しい。ナナミを愛している』
『はい わたしも 愛してます』
まるで教会でする誓いのキスのように、
優しく軽く口付けを交わす。
婚約とか、事実婚とか、急に言われて……
とても驚いたけれど、とてもとても嬉しくて幸せだった。
クラピカも幸せを感じてくれているといいな――
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